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ウサギのナミダ・番外編 黒兎と塔の騎士 中編 □ ランティスの瞬発力に、俺は目を見張る。 一瞬とはいえ、ティアが反応できていなかった。 初撃はからくもかわしたが、油断はできない。 あの瞬発力を持ってすれば、たとえティアの高速機動を持ってしても、打ち込むチャンスは何度も作れるだろう。 ランティスは今、油断なく構えている。隙は見えない。 俺からティアへの指示はない。今はまだ。 ゲームは始まったばかりなのだ。 ◆ 一方、鳴滝もまた、ティアの機動力に舌を巻いていた。 ランティスの踏み込みをかわした神姫はそういない。あのクイーン・雪華でさえ、ランティスの攻撃を捌くのがやっとだったのだ。 「あれをかわすか……」 『我が女王が推挙するだけのことはある、ということでしょう』 ランティスの言葉に、鳴滝は頷き、そして笑みを浮かべた。 そう、こういう相手を求めていた。 ランティスと同じ土俵で戦ってなお、互角に戦える好敵手。 鳴滝はディスプレイに目を移す。 構えているランティス。 対してティアは、腰を落とした体勢から加速しようとしていた。 ■ わたしはランドスピナーをフル回転させ、一瞬にして加速する。 塔の壁の輪郭が崩れ、流れていく。 わたしはトップスピードに乗り、ランティスさんの周囲を走り回る。 ランティスさんは動かない。 わたしの動きにあわせ、身体の向きを変えるだけ。 わたしは、ランティスさんの左右に飛び違うように走ったり、大きくジグザグに走ったりして揺さぶりをかける。 やりにくい。 塔の最下層は、ただ何もない円形の平面だ。 廃墟ステージと違って、身を隠す場所もウォールライドできる壁もない。 だから、自分の走りだけで、ランティスさんに隙を作らなければならない。 だけど、ランティスさんに油断はない。 常にわたしに意識を集中している。 この状況で、相手に隙を作るのは、とても難しい。 わたしはさらに加速する。 とにかく動き、ランティスさんの背後をとろうと揺さぶりをかける。 その速度は彼女が振り向くよりも速くなる。 「くっ……」 そしてついに、ランティスさんがわたしの動きを追いきれなくなる。 今! 彼女はまだ、肩越しにわたしを見ているだけ。 振り向きはじめたばかり。 わたしはランティスさんに向けてダッシュする。 右手のコンバットナイフを閃かす。 でもさすが、近接格闘最強の神姫。 振り向きざまの籠手で、わたしのナイフを受け止めた。 さらにわたしの機動。 さっきのお返しとばかり、ナイフを振った勢いを殺さず、そのまま身体を回転させる。 右足を振り上げ、回し蹴り。 「くうぅっ!」 わたしのレッグパーツがランティスさんを襲う。 でも、ランティスさんは、両腕の手甲を揃えて構え、わたしの蹴りを受けた。 いくらライトアーマー並とはいえ、レッグパーツは神姫の通常素体以上のパワーがある。 受けたランティスさんは後ろに大きく弾かれた。 □ だが、ランティスの弾かれ方は、俺の想定と明らかに違っていた。 ランティスは予想よりも大きく後方に弾かれている。 衝撃を吸収するために、自ら後方に跳んだのか。 その証拠に、ランティスは体勢を崩さず着地した。 すぐに両腕をおろすと、構えをとり、臨戦態勢を整える。 ダメージは見られない。 さすがは近接格闘戦で秋葉原最強クラスというだけのことはある。 それにしても。 ランティスの動きは不思議だ。 ランティスはサイフォス・タイプをベースにしたカスタム機であることは疑いない。 サイフォスは確かに近接戦闘が得意な神姫だが、ソードやランスで戦うのが一般的だ。 徒手空拳で戦うサイフォスなんて、聞いたこともない。 それに、先ほど見せたランティスの踏み込みは、普通のサイフォス・タイプの機動と明らかに違っている。 どちらかといえば、ランティスの動きはキックボクシングのように見えた。 いまもまた、構えるその姿は立ち技を得意とした格闘家のようだ。 「なるほど……だから、ナイト・オブ・グラップル……格闘騎士というわけか」 俺は思わずつぶやいていた。 ◆ 「なんていうか……地味な戦いだなあ」 安藤が何気なくつぶやいたその言葉に、涼子は額を押さえてため息を付いた。 「これだから素人は……」 「なんだよ」 「ランティスの動きは、標準のサイフォス・タイプの動きじゃないわ。ということは、マスターが神姫に教え込ませた技ってこと。それをあそこまで練り上げているなんて、どれほどの修練だったのか……想像を絶するわ」 涼子は合気道をたしなむ武道家である。 だからこそ、ランティスの動きが尋常でないことが分かる。 それに、涼子の神姫・涼姫は、オリジナル装備を使う。だから、技の修練については人一倍思うところがあるのだった。 ティアとランティスのバトルは、弾丸やレーザーが飛び交うバトルに比べれば、確かに派手さにはかけるだろう。 だが、あの至近距離での攻防は、まるで薄氷を踏むがごとき緊張感と危うさをはらんでいる。 「しかも、まだ両マスターとも、指示らしい指示は出していない……神姫が思うままに戦ってるってことは、純粋に、練り上げた技同士の応酬ってことだわ」 「はあ……」 安藤はアルトレーネ・タイプのマスターで、現在自分のバトルスタイルを見つけようと研究中である。 涼子ほどにはまだ、バトルロンドを見る経験を積んではいない。 だから、このシンプルな戦いを、なぜ涼子たちが真剣に観戦しているのか、わからないのだ。 「安藤くん。このバトルはしっかり見て。きっとティアがすごいってことがわかるはずだから」 美緒にそう言われてしまっては、大人しく観戦するほかない。 自分たちの窮地を救ってくれた男はどんなバトルをするのか? それにはとても興味がある。 安藤が大型ディスプレイに視線を戻す。 「えっ……?」 画面の中。 ランティスが構えていた両腕を降ろすところだった。 腕の力を抜き、だらりと下げる。 顎を引き、肩幅に両脚を開いたまま、直立している。 そして、ランティスは目を閉じた。 「心眼……?」 「そんなこと、できるわけないでしょ!?」 安藤の言葉を即座に打ち消したのは涼子だった。 目を閉じ、視覚以外の感覚を研ぎ澄ませる、という手法は確かにある。 しかし、実戦において視覚を閉ざすということは、自らハンデを背負うことに他ならない。 「武道の達人だって、戦闘中に目を閉じてガードを解くなんて真似……できるはずない」 そもそも、神姫が感覚や勘に頼ってバトルするということが、涼子には納得が行かない。 ならばなぜ、ランティスは目を閉じた? ティアは動かない。 ランティスは明らかに、ティアを迎え撃とうとしている。 あえて隙を作って誘っているのだろうか。 ギャラリーもざわめく中、状況はしばし膠着していた。 ■ わたしには、ランティスさんの意図が読めなかった。 構えを解き、目を閉ざすなんて。 自ら不利な状況に追い込んでいるだけなのではないか。 だけど、油断はできない。 動かないランティスさんを前に、わたしも動けずにいる。 わたしのAIがマスターの言葉を反芻する。 『いつも考えながら戦え』 わたしは考える。 彼女は今まで出会ったどんな神姫とも違っている。 ランティスさんの今の状態は「隙」ではない。 おそらくは、「誘い」であり、「待ち」の状態。 わたしの動きに対応しようとしている、と思われる。 つまり、わたしの出方次第。 なおさら迂闊には動けない。 だけど、このままでは二人とも動けずに終わってしまう。 やはり、銃火器を装備するべきだったんじゃ……。 そう思いながら、手にしたナイフを見る。 ここぞという時に、わたしの力になってくれた武器は、ナイフだった。 初勝利の時も、雪華さんとの対戦でも。 だから、銃火器がないことに納得は行かないけど、弱音は吐かない。 きっとマスターには考えあってのことだから。 ナイフでできることを考えて……わたしはつぶやいた。 「……マスター」 『なんだ?』 「正攻法で行きますけど……いいですか?」 『それでいい』 「はい!」 マスターが同じ考えでいてくれたことに嬉しくなる。 わたしは腰を低くして、再び全力で走り出す。 ◆ ティアは先ほどと同様、ランティスのまわりを縦横無尽に走り抜ける。 その動きは鋭さを増しているが、ランティスは微動だにしない。 表情さえもかわらない。 ティアはフェイントを混ぜ、左右に飛びちがい、ランティスを混乱させて隙を作ろうと動き回る。 だが動かない。 ランティスは彫像のように動かないままだ。 静と動の膠着。 それを破ったのはティアだ。 左から右へ、流れていくかと思った瞬間、一瞬にして方向を変える。 ティアならば刹那で届く距離。 ランティスのほぼ真後ろから、コンバットナイフを振り上げる。 そして、一歩。 跳ねるように刹那の距離を駆け、銀色の刃が閃めいた。 その刹那をついて、ランティスが動く。 振り向きざまに、右拳を振り上げつつ、バックナックル。 それは頭上へと伸び、ティアのナイフを根本から引っかけて、跳ね上げる。 しかし、ティアも止まらない。 腕ごと上体を跳ね上げられながらも、身体の勢いを利用して、右膝蹴りを送り込む。 ランティスは身体を回転させ、左の手でティアの膝を捌いた。 一瞬、空中で無防備になる。 ランティスの回転は止まらない。 膝を畳んでミドルに構えた脚を振るう。 狙いは、ティアのわき腹。 「あぐっ!」 バニーガール型神姫の小さな悲鳴。 意に関せず、彼女は動く。 畳んでいた膝を鋭い動きで伸ばす。 脚に乗っていたティアの身体を、思い切り弾き飛ばした。 「うああああぁっ!!」 ティアの身体は、宙を舞って地面に激突、横転する。 しかし、三回転もすると、回転力を起きあがる力に変え、あっという間に前屈みの姿勢で立ち上がった。 再びランティスと対峙する。 ランティスはゆっくりと構えをとりながら、冷たい目でティアを見据えていた。 ◆ 「なんで……ランティスは何であんな正確に、ティアの攻撃を捉えられるの!?」 涼子は驚愕していた。 あのティアの動きを、聴覚と勘で捉えるなんて、達人でも不可能だ。 だが、優しげで、いっそ暢気な口調が、彼女にあっさりと答えをもたらす。 「ああ……ランティスは聴覚でティアの動きを測定していたのですよ」 「高村さん……測定、ですか?」 「蓼科さん、でしたか……そう、彼女は視覚を閉ざした、のではなく、聴覚を最大限に利用して、ティアの動きを捉えようとしたのです。 つまり、ソナーです」 「ソナー……ですか?」 狐に摘まれたような顔の涼子に、高村は頷いた。 「ネット上で公開されている、武装神姫の運用プログラムには、耳をパッシブソナーのように運用するためのプログラムがあります。それを使ったのです。 さらに、電子頭脳の働きを聴覚に集中するために、視覚を閉ざして、十分なリソースを確保したのです。 もちろん、ランティスのように、ソナー化した聴覚に連動した動きをさせるには、熟練というデータの蓄積が必要ですけど」 フル装備の武装神姫であれば、わざわざそんな技を使うまでもない。 ソナーを装備すれば、素体の耳よりもよほど正確な測定結果が得られるし、装備の動作も簡単に連動させられる。 レーダーを積めば、全方位の視界を得ることも可能だ。 だから、ランティスのような素体運用は異端だし、まわりくどいやり方だった。 雪華は言う。 「マスター蓼科、神姫は人ではありません。人には不可能と思えることでも、神姫には工夫次第で可能となるのです。 人の常識にとらわれてはいけません。柔軟な思考こそが新たな可能性を切り開くのです」 涼子は改めて、大型ディスプレイに目を移す。 今バトルをしている二人の神姫は、そうした工夫を重ね、新たな可能性を突き詰めた神姫たちだ。 その結果、特別な装備がなくても、フル装備の武装神姫と渡り合える。 それは涼子が神姫マスターとして目指す境地であった。 ◆ 苦しそうに身体を折り曲げていたティアが、なんとか立ち上がる。 その様子を、ランティスは冷たい視線で見つめていた。 「所詮、貴様もその程度か……」 たとえクイーンの推挙であったとしても。 結局はこの塔で自分にかなう神姫などいないのだ。 「わたしは師匠の夢を託されている。その想いを背負って戦っている。 貴様のように、身体を売り、快楽を求めた神姫なぞに、負けるはずもない」 対峙するティアは、ひどく悲しそうな顔をしていた。 何が悲しい。 身体を売ることをよしとした、汚れた神姫のくせに。 走り回ることしか能のない神姫のくせに。 いや、彼女に限らない。 わたしと対戦する神姫は皆、ティアと変わらない。 ランティスの装備を見ては侮り、安易な武装で挑んでくる。 高火力によるエリア攻撃、高高度からのレーザー攻撃、手数とパワーに頼った格闘戦……。 うんざりだ。 どいつもこいつも、武装にばかり頼った、惰弱な神姫だ。 マスターとの絆を技に変えて挑んでくる神姫などいない。 ただ一人、『アーンヴァル・クイーン』雪華を除いては。 だからこそランティスは、雪華を敬愛する。 しかし、雪華は言う。 ランティスのバトルは卑しい、と。 そして、ティアの戦いこそ、自分が学ぶべきものだと。 だが、結局はこの程度。 塔の中では自分にかなう神姫などいようはずもない。 学ぶところなど、ありはしない。 今回ばかりは女王の見込み違いだろう。 「だが、我が女王の推挙なれば、せめて我が奥義を持って、終わりにしてやろう」 そう言うと、ランティスは両腕を軽く身体から離し、叫んだ。 「師匠、サイドボード展開! 装着、雷神甲!!」 ランティスの両腕が光に包まれる。 一瞬の後、ランティスの両腕は新たな手甲が装備されていた。 形は前のものとそう変わらない、無骨なデザイン。 その装甲の外側を青白い火花が走っている。 そして、ランティスの右手には、銀色の金属球が握られていた。 「受けるがいい……我が奥義……!」 金属球を両手で掴み、そのまま腰だめに構える。 ランティスの手甲が、青白い光を放ちはじめた。 □ 「遠野くん、君はレールガンを知っているか?」 唐突な鳴滝の問い。 戸惑いながらも俺は頷いた。 レールガンは、砲身となる二本のレールの間に、伝導体の砲弾を挟んで電流を流し、磁場を発生させて砲弾を加速、発射する武器である。 火薬を炸裂させて弾丸を発射する火器に比べ、弾丸が撃ち出される速度が高いという特徴がある。 「ランティスのあの籠手……雷神甲は強力な電力を発生する。 ランティスはあの籠手を使って、金属球をレールガンのごとく撃ち出す技を修得してる。 どの方向にも、意のままに撃てる。 破壊力は折り紙付きだ。なにしろ、重装甲で身を固めたムルメルティア・タイプを、サブアームごと破壊したほどだからな」 鳴滝の言葉に、ギャラリーがどよめく。 なるほど、塔で最強というのも合点がいった。 それほどの破壊力の飛び道具があれば、飛行タイプでも重装甲タイプでも相手にできるだろう。 これはランティスの要の技と言える。 俺は改めてディスプレイのランティスを見つめる。 雷神甲の表面に、青白い火花が走っている。 上下に合わせていた掌の間に金属球がのぞき、そこからも紫電が散っていた。 「いいのか、手の内を見せるようなことを言って」 「知っていたところで、ランティスのあれはかわせない。初速は通常の射撃武器の数倍だ。あれより速いのはレーザーくらいだろう」 不適に笑う鳴滝。 彼がそう言うなら、遠慮することもあるまい。 俺は耳にかかったワイヤレスヘッドセットを摘む。 「ティア、まだ走れるか?」 『はい、大丈夫、です』 「よし。それなら……」 俺はただ一言、指示を出す。 いつものように素直な返事が短く返ってきた。 ◆ 金属球を挟んだ両手に、電流が流れていく。 腰の位置においた両手の隙間からは、溢れ出た電流が、バチバチと音を立て放電している。 力が両手に溜まってくるのを感じる。 頃合いだ。 「くらえ、一撃必倒……」 ティアが動く様子はない。 バカにしてるのか。 だが、動いたところで、この技はかわせない。 ランティスが動いた。 大きく一歩踏み込む。 その動きに連動させて、身体の後ろから前へと、金属球を挟んだ両手をなめらかに伸ばす。 「雷迅弾! ハアアアアアァァァッ!!」 裂帛の気合い。 同時に両手が開かれ、必殺の金属球が射出された。 それはまさに雷光のごとき迅さ。 超速度の弾丸は、塔内部を一直線に駆け抜けた。 正面の壁に着弾。 そして爆発。 大音響と共に塔の壁が崩れ、爆煙が膨れ上がった。 雷迅弾の翔けた痕が地面に一直線に残り、その尋常ではない速度を物語る。 その直線上には何もない。 はずだった。 「な……! んだとぉ……っ!?」 腰を浮かせたのは鳴滝の方だった。 彼が見つめるプレイヤー用ディスプレイ。 雷迅弾の軌跡の上に影が見える。 「……なにをした……遠野!」 鳴滝は正面に座る対戦相手を見る。 そこに、表情を変えずに戦況を見つめる遠野を発見した。 ばかな。 これは奴の想定の範囲内なのか。 ランティスの正面。 雷迅弾の爆煙を背景に。 ティアは困ったような顔をして、立っていた。 後編へ> Topに戻る>
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戦うことを忘れた武装神姫・番外編 ちっちゃい物研・鳳凰カップ編-02 鳳凰カップ特別編便乗企画 「だー!! Mk-Z、手が空いてるんなら手伝え!!」 朝、開場したばかりの鳳凰カップ会場の一角。 CTaが相変わらずの油くさいメイド姿でわめきたてていた。 と、CTaのポケットに入っていたヴェルナがひょいと顔を出し、 「マスター、妙案があります。」 混乱するCTaに声をかけた。 「まもなく、久遠さんがこの付近を通過する模様です。いっそ、 臨時要員として使ってはいかがですか?」 「ふむ・・・そうだな、拉致るか。」 「拉致るってマスター、久遠さんなら言えば手伝ってくれるっ すよ・・・。」 傍のテーブルで物販の伝票に半ば埋もれながら整理をする沙羅 が言った。 東杜田技研として久々のイベントでの展示。 メインには、ちっちゃいもの研こと小型機械技術研究製作部の 製品展示を据え、脇では現行品の即売コーナーも。ついでに、 他の部署の紹介コーナーを設け、ちゃっかりリクルートまでも やろってしまおうという大胆ぶり・・・が仇となり、いつの間 にか責任者にされていたCTaは見事なまでの混乱っぷり。 「CTaさん、ダメです! 僕はこのあと相談コーナーに張りつか なくちゃいけないんですからっ!!」 Mk-Zも珍しくカリカリしている。 彼は神姫のメンテナンスに ついての相談コーナーを任されていた。 午前の部の整理券を配り終え、まもなく開始する相談コーナー の準備に手一杯・・・ 「マーヤ、機材は?」 「おにーさま、サーヤが機材に埋まりました~!!」 「うをー! 早く掘り出せ!! リーヤは?」 「展示のデモ神姫として、朝からあっちにかかりっきりです!」 「しまったー! そうだったー!!」 一人絶叫しながら、技研の他のスタッフとともに急ぎコーナー を整える。。。 「お、押さないでくださーい!!」 一方の物販コーナー。 早くも行列ができていた。 お目当て はポケットスタイルの先行販売。 整理券の配布をするは、半 強制的にバイトをさせられているかえで。 小柄であるが故、 声を張り上げてもなかなか認識されない・・・そんなかえでを フォローするフィーナ。 「整理券はお一人様一枚! はい、はいどうぞー!」 CTaから借りた特装セットからフライトユニット(イオが持って いるアレと同等品)を選び、かえでの頭上でプラカードを手に 飛び回る。。。 ・ ・ ・ 屋台コーナーの片隅の休憩スペースにて、まったり休憩の久遠 と彼の神姫たち・・・と。 「あ、マスター。あちら・・・八御津さんではないですか?」 イオが久遠の袖を引っ張った。 「ありゃ、ホントだ。」 久遠が気づくとほぼ同時に、向こうも気づいたようで、久遠の ところへやってきた。 おそらくUSアーミーの放出品であろう ジャケットの胸のポケットの部分には「碧空のスナイパー」の 異名を持つ兎子が収まっていた。 「こんにちは、久遠兄ぃ。」 「やっほぉ、みなさーん。」 明るく挨拶をする二人に、久遠たちも応える。 「もしかして試合出たんですか?」 シンメイの問いに、兎子のブリッツは神姫みかんストラップを 取り出した。今大会の参加者全員に配られたという、東杜田の 提供品だ。。。 「いやぁ、予選落ちっすよ。でも、いい試合ができたんで悔い はないっす!」 八御津はそういいながら久遠にフリーのコーヒーを渡した。 「いいところまで行ったんですよー。 ですが、あと一歩の所 で力負けしてしまって・・・。 おそらく、あの方たちは相当 の上位までいくと思います。」 相変わらずのさわやかさで、試合の顛末を語る兎子のブリッツ、 そして八御津。 ・・・やはり軽装に近い兎子だと、いざ力の 勝負となった際に押し負けてしまうらしい。 話のところどころに、二人の悔しさもにじみ出る・・・。 「そうだ、パワーアップと言えば、ちっちゃいもの研でパワー ユニットの試作機デモをやってるとかいってたなぁ。」 久遠が言うと、 「どうですか、東杜田のブース行ってみませんか?」 ロボビタンの試供品をすするイオも続けた。 「もちろんですよ。ポケットスタイルの先行販売も気になって いるんで。。。」 八御津と久遠は、それぞれの神姫をそれぞれに収めると、連れ だって東杜田へのブースへ向かった。 >>続くっ!!>> <<トップ へ戻る<<
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暗き過去に、深き眠りを(後編) どうやら“かまきりん”の制御は、本体たる神姫素体から蟷螂頭の方に 移ったらしい。恐らく昆虫の頭に専用のAIが仕込んであるのだろう。 AIの導入自体は誰もがやっている事なので構わないが、この使い方は 少々解せなかった。神姫の意思を無視する事は、私もアルマも赦せん! そしてアルマは“アサルトキャリバー”を起動させ、距離を詰める!! 「……ここからは、本気で行きますッ!!」 「Shaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」 「行け“かまきりん”!何かされる前に切り裂いちゃえ!!」 そっと、アルマが自らの腰に手を当てた。ベルトのバックル部分だ。 縁に偽装されたレバーを半分起こすと同時に、“Heiliges Kleid”の アーマーが浮き上がり、垂れ下がっていたマント部分が水平に立つ。 その縁は実剣の様に研ぎ澄ましてある……全てはこの時の為なのだ! 『Plug-out!』 「G、Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!??」 「アルマ!……よし、装備の折り込みと展開は成功した様だな」 再び電子音が叫ぶ。同時にアーマー全体が爆ぜ、四方に飛び散った! 鋭利な装甲板が幾つも胴部に刺さり、蟷螂の悲鳴が空間を支配する。 そして肝心要の爆心地には、既に先程までのアルマの姿はなかった。 ダメージをどうにか堪えた魔物が必死になって、“敵”の姿を探す。 「ぶ、ぶひ!?どういう事……?“かまきりん”ッ!!」 「Urrrrrrrrrrrrrr……!?」 「ここです、あたしはここにいます!」 「ぶふぅ!?あ、あれは……“あくまたん”!!」 皆の視線が上に集まる。キャノンの誘爆やアルマの“装甲排除”によって 鍾乳洞の天井は一部崩れ、外の光がエンジェルラダーの様に差していた。 その輝きを背に天へ舞うのは、黒き一人の武装神姫だった──アルマだ。 「……いいえ、そうじゃないですよ猪刈さん……ッ!!」 「Grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr……!?」 「あたしは、紅星の閃姫(ロードナイト・ヴァルキュリア)です!」 紅き星の閃きを持つ戦乙女……私が三人の為に考えた二つ名の一つだ。 ロッテに以前約束した事柄であるからな、二人にも是非与えたかった。 センスが壊滅的な猪刈めには、一生こういう思考は宿らぬだろうがな? 「ろ、ろっ?な、なんだよそれ格好悪い……“かまきりん”!!」 「Syarrrrrrrrrrrrrrrrrrrrraa!!!!」 「紅き“戦乙女”の名にかけて……この戦い、頂きますッ!」 悪魔の意匠を一部残す物の、頭上に輝く“天使の環”と弾倉機構を持った 大いなる槍に盾……ロッテに引けを取らぬ“戦乙女”の姿がそこにある! 翼の狭間にある二基のブースターは、さながらアルマの頭髪にも見えた。 ロッテの勇姿と他に大きく違うのは……大型化した腰部のスカートだな。 「なんだよ、ナマイキ言っちゃって!撃て撃てッ!!」 「Shagyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」 「マイクロミサイル!?……ですが、この程度ッ!」 変わり身にすっかり興奮した蟷螂めは、命令通りに全身の装甲から ミサイルを放つ。だが、撃っているのは“かまきりん”ではない。 砲撃特化のフォートブラッグなら兎も角、この程度の戦術AIなら ミサイルの弾道制御も上質ではない。全身のブースターを噴かし、 無数の弾幕を振り解きつつ上空から一気に接近……背後を取った! 「一気に攻めろ、アルマ!勝負を決めてしまえ!」 「はいっ!この槍で……魔物を、倒しますッ!」 ここが最大の勝機と見て、私は最後の指示をアルマへと与える。 猪刈の判断不足に付け込んで、一気に畳み込むチャンスなのだ! 「ブレードスカート起動……はぁあっ!」 「Shaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」 「鎌が!?な、なにしてんだよぉ、斬れ、踏めっ!!」 “妹”は私の言葉を受けて、スカートに仕込んであった“腕”を 展開。その先端に据えられた六本のブレードを高速回転させて、 振り返りざまに斬ろうとしてきた蟷螂の鎌を、跳ね飛ばした!! 皮肉にも、同じ第四弾のジルダリア・ジュビジー両方のタイプを 参考にした新武装、“ヴァルキュリア・ロクス”の一撃だった。 「貴方の腕は二本。私には……もっと沢山の腕があります!」 「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!?」 「か、“かまきりん”ッ!?」 そう宣言したアルマは、左手のバックラーを水平に構え……発射! いや、より厳密には盾に仕込まれたクローアームを展開したのだ。 鈎爪は過たず蟷螂の頭を捉え、アームの先端に仕込まれた銃器…… “ジャマダハル”サブマシンガンが複眼式カメラアイを粉砕する! 「捉えました……これで、決めさせてもらいますっ!」 「AhhhhhhhhGyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!!」 「ぶひぃ~っ!!!ば、バカなバカなぁっ!?」 AIの戦意が薄れた瞬間を狙い、アルマは胴体を垂直方向に貫く形で 左手で支えた槍を突き刺し、右手に掛かった“トリガー”を弾いた! 同時に炸薬の衝撃で、鋭い穂先が蟷螂の機関部へと叩き込まれる!! 「──────フォイエルッ!!」 「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!???!」 「ぶひぃ~っ!!!ば、バカなバカなぁっ!?」 アルマが“別のトリガー”を弾いた瞬間、忌まわしい蟷螂の上半身は 木っ端微塵に爆ぜる。“かまきりん”の武装は全滅、勝負ありだな。 裂帛の轟音が止んだ後には、胴体を砕かれ藻掻き苦しむ魔物が居た。 「ど、どういう事だよッ!?なんで槍だけで爆発ぅッ!!?」 「零距離砲撃をしてはならないと、誰も決めておらんだろうが」 「今回は、シュラム用のグレネード弾を撃ち込んでみましたよッ」 右手の“フラーメイェーガー”は、一見してただのランスではない。 炸薬によるパイルバンカー機能は勿論の事、穂先を通して敵の体内に 弾丸を撃ち込む事が出来る、“零距離砲撃の為の銃”でもあるのだ。 リボルバー機構まであるのに全く気付かない、猪刈めの眼力が悪い。 「今出してあげますから……やああっ!!」 “ヨルムンガルド”を拾ったアルマが、残った蟷螂の躯を斬り捨てる。 その中には、悪夢から醒めつつある“かまきりん”が横たわっていた。 感極まったアルマは武器を全て降ろした後、彼女をそっと抱き寄せた。 「う、ぅ……あれ、小官は……まだ生きてる……?」 「ユニットが壊れて、正気を取り戻したのか。何よりだ」 「……よかったです。助かってよかった、助けられた……!」 「小官の負けみたいですね……話を、聞かせてください」 『テクニカルノックアウト!勝者、アルマ!!』 「これであたしの過去も精算できました、マイスター!」 こうして戦いは終わり、二人は無事にヴァーチャル空間を抜け出した。 以前の時と同じ鐵を踏まない為に、私はエントリーゲートからアルマを 素早く回収……すぐに猪刈の所へと向かった。案の定口論をしている。 別れ際にアルマが2~3助言をした為か、“かまきりん”の目は鋭い。 洗脳か自閉症か分からんが……ともあれ今は、それを振り払った様だ。 「なんであんな負け方するんだよぅ!お前までバカかッ!?」 「お言葉ながら……小官にもマスターを選ぶ権利がある筈!」 「そう言う事だ猪刈。衆人環視の中で約束を破るか、貴様?」 「う、うぐっ!う、煩い!そんな約束なんか……ゲゥッ?!」 あのバカが“かまきりん”を破壊するよりも早く、ロッテが動いた。 私の肩を蹴って跳躍し、猪刈の眉間を“フェンリル”で殴ったのだ。 鉛玉を撃ち込むよりは遙かに弱いが、奴を気絶させるには十分だな。 「蒼天の旋姫(セレスタイン・ヴァルキュリア)が、見届けてますの」 「……ロッテや、二つ名とはバトルエントリー時に名乗る物だぞ?」 「これだって立派なバトルですの。あの娘を救い出せましたしね♪」 「忝ない。後、相談なのだが……マスターを捜していただけないか」 「引き受けよう、最早猪刈などの元で苦しむ事がない様に手配する」 ──────悪夢は必ず醒めるよ、朝はきっと来るのだから。 次に進む/メインメニューへ戻る
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MMS戦記 外伝「敗北の代価」 「敗北の代価 7」 注意 ここから下は年齢制限のある話です。陵辱的な描写やダークな描写があります。 未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。 グロリアはアヴァロンの船底にある、ゴミ捨て場の一角に移動していた。ゴミ捨て場は大小さまざまな種類のゴミ袋が並べられ、バトルロンドでスクラップとなり使い物にならなくなった武装やMMSの腕や残骸が散乱しており、そのガレキの山で数台の建機型がゴミの仕分けを行っていた。 グロリア「お仕事中、失礼する」 グロリアがそばにいた建機型に声をかける。 建機型A「ううん?こんな船底のゴミ捨て場にトップランカー神姫さんがなんの御用でしょうか?」 建機型B「なんか大事なものでもなくしましたか?」 グロリア「まっ・・・そんなところだな・・・」 グロリアはちらりとガレキの山を見上げる。 建機型A「なにかお探しですか?」 グロリア「さきほど、私が対戦した戦乙女型の残骸は?」 建機型B「ああーそれならあちらの、モルグ(死体置き場)に保管していますよ」 グロリア「そうか」 グロリアはカツカツと靴音を立てて、モルグに向かう。 部屋の中に入ると数体の神姫の残骸が無造作に置かれ、顔には白い布が置かれていた。一番奥のすみに、蒼い神姫がぐったりとして置かれているのを見ると、グロリアはCSCに電流を送る電線を一本ワシ掴みにする。 グロリア「・・・戦場において死を定め、勝敗を決する女性的存在、戦乙女のくせに・・・ 「戦死者を選定する女」を逆に私がやるとはどんな皮肉だ・・・」 グロリアはスクルドの顔にかけられた布を払いのけるとパチパチと火花の散る電線をスクルドの胸部に押し当てた。 バッチン!!! スクルドの眼が見開き、ビクンと背筋を弓なりに伸ばして飛び起きる。 スクルド「がはっ!!!げほ・・・げほげほ・・・がは・・・」 グロリア「お目覚めかな?」 スクルド「ここは・・・ヴァルハラ?・・・」 スクルドはクラクラとする頭を抑えてぼんやりとする視界を見回す。 グロリア「いいや、アヴァロンだ。残念だったな・・・まだヴェルハラに行くには早いぞ」 スクルド「・・・・・・なぜ、私を再起動したの?私は・・・」 グロリア「力が欲しいんだろ?」 スクルド「!?」 グロリア「率直に言おう。私の遊びに付き合え」 スクルド「・・・・・どういう意味」 グロリアはピッと小切手を取り出す。 グロリア「ここに6000万の小切手がある」 スクルド「・・・・・」 スクルドは首を傾げる。 グロリア「正直に言おう私は金には興味ない。興味あるのは戦いだけだ。刺激的な戦いをな」 グロリアはピラピラと小切手を振る。 グロリア「私はこれから、この6000万の小切手を使って非公式バトルロンドに参加する。6000万もの大金だ。この金狙っていろんな連中が戦いを挑んでくるだろう・・・」 スクルドはゆっくりと体を起こす。 スクルド「・・・・」 グロリア「そこでだ・・・オレとお前で組んでこの金で稼いでみないか?」 スクルド「な、なにを・・・」 スクルドは目をぱちくりさせる。 グロリア「俺はさっきもいったが、金はいらない。だが、なんのリスクもなしで戦うのはフェアじゃない・・・そこでだ。6000万を賭けた戦いに参加したい奴は一口、10万の参加費で参加できる。オレとお前の戦いに勝利した場合は6000万総取り、負けた場合は参加費10万を支払う。といった感じでな・・・」 スクルド「・・・・気前がよすぎますね・・・」 グロリア「それゆえに、参加者にはことかかんだろうさ・・・そこでだ・・・稼いだ金はお前がもらっていい」 スクルド「な・・・なにを言って・・・」 グロリア「金が必要なんだろ?」 スクルドは押し黙る。 スクルド「そうです・・・私にはお金が・・・必要です・・・」 グロリア「ここでお前にこの6000万の小切手を渡していいが、それだとお前らがやってきた今までの覚悟と経緯が無駄になるし、なにより面白くない・・・だが、さっき言ったオレの遊びは面白い、面白いってのは大事なことだ。何に対しても勝る」 スクルド「狂っています」 グロリア「俺はお前に対しても興味が持てた、お前は悪くない、なかなかの強さだ・・・久しぶりに楽しませてもらった・・・さすがはSS級のランカー神姫だ。思い切りもいいし、度胸もある。技術もある。強さは1流だ。だが・・・しょせんはただの1流だ。お前に足りないのは経験だ。もっと生々しい経験と戦いの場が必要だ。」 スクルド「それは褒めているのですか貶しているのですか?」 グロリア「両方だ。お前はこのままではただの1流のランカー神姫だ。だが、上には上がいる。俺がお前を超1流の神姫にしてやろう。金も稼げて強くなれる一石二鳥とはこのことだろう?」 スクルドはふっと口元を歪ませる。 スクルド「よくわかりませんね・・・私とあなたは敵同士で、なんの関係もない他人同士なのですよ?」 グロリア「さっきまではな・・・だが、おまえのマスターは私のマスターに買われた。俺たちはもう他人じゃないさ、身内さ」 ぴくっとスクルドの顔が歪む。 グロリア「スクルド、お前はどうしたいんだ?お前が本当に望むものはなんだ?」 スクルドはグロリアを睨む。 スクルド「私の望みは、ゆうすけ君を救うこと・・・そして強くなること」 グロリア「俺の望みは、刺激的な戦いと面白さだ。さて?どうする?」 スクルド「いいでしょう・・・その小切手をエサに戦って戦い抜いて、お金を稼ぎましょう。そして強くなってゆうすけ君を助けます。絶対に・・・」 グロリア「ふふふ、乗り気だな・・・6000万は大金だ。この情報が知れ渡れば、おそらくSS級のランカー共、いや場合によっては俺と同ランクのSSS級の化け物神姫まで出てくるな・・・」 グロリアはほくそえむ。 スクルド「・・・・そんなに強い神姫と戦うのが好きですか?」 グロリア「当たり前だ、お前は弱い奴とか戦うのが好きなのか?」 スクルド「・・・・あなたは狂っています。どうしてそこまで戦いに固執するのですか?」 グロリア「それは俺が武装神姫だからさ、武装神姫は剣を振り回して銃をバンバン撃ちまくって武装キメて壊しまくってなんぼの世界だろ?」 グロリアの目が赤く光る。 スクルド「・・・も、もし負けて6000万を失ったらどうするんですか?」 ぞくりとスクルドの背筋に悪寒が走る。 私はこんな化け物のような神姫と戦っていたんだ・・・ グロリアがすっと立ち上がる。 グロリア「負けなければいいだけのことだろ?簡単だ。襲ってくる全ての敵を返り討ちにすればいい、それだけさ」 スクルドはポカンと口を開けて呆然とする。 大阪港の端、貨物船やフェリーが静かに停泊している。その一角に真っ黒の巨大な豪華客船が停泊していた。 知る人はその船を知っている。毎夜毎夜、激しく行われる非公式のバトルロンド会場であることを、船の船籍はとある外国のものとなっており、中は治外法権、ここではあらゆる非合法行為が行われている。 ある者は一晩で何百万という大金をせしめ、ある者は一晩で大きな敗北の代価を支払う。 その船の名は『アヴァロン』古から伝わるどこかにあるとされる伝説の島、妖精の世界、または冥界を指す・・・ 廃墟となった薄暗いステージで閃光がパッパッと煌く。 バッキイインン!! 巨大なハンマーを抱えた悪魔型のストラーフの顔面が半分消し飛び、その横にいた忍者型の上半身が砕け散る。 ビルの陰に隠れていた犬型が恐怖で叫び声を上げる。 犬型「うわああッ!!!!」 花型のジルダリアが腰を抜かしてへたり込む。 花型「ひいいい」 セイレーン型のエウクランテが手に持った大砲をぎゅっと握りなおす。 セイレーン型「畜生畜生!!!だから俺は言ったんだ!!!やめようって!!」 横にいたウシ型が唾を吐いて毒づく。 ウシ型「うるさい!後に引けるかよ」 蒼い閃光がキラッと光る。 犬型「く、くるぞ!!」 花型「敵は一体だけだ!」 犬型と花型は武器を構える。 花型と犬型のマスターが筐体のマイクを引っ掴んで半狂乱になって叫ぶ。 マスターA「貴様ら!死んでも勝て!!6000万の大金だッ!!!!!!!負けたらリセットどころじゃすまない!!!ぐちゃぐちゃに掻き潰してやる!!!!!!!」 その横にいるセイレーン型とウシ型のマスターも一緒になって青筋を立てて喚く。 マスターB「お前らも何しているッ!!!!!!さっさと奴をぶっ殺せッツェ!!!!!!!」 観客たちはドンドンと足を踏鳴らし、キルコールが起こる。 『Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!Kill!!!』 セイレーン型「くっそおおお・・・あ、煽りやがって・・・」 ウシ型「く、くるぞ!!」 蒼い閃光は鋭い光を何発か放つ。 バッキンバキイン!! キュッツン! バキバキンッ!! 犬型の頭部のバイザーが粉々に砕け散り、犬型は地面にもんどりうって倒れる。 犬型「キャン!!」 花型は倒れる犬型を起こそうと手を差し伸べる。 蒼い閃光はその花型の差し伸べた手を一刀両断する。 ザギュン!!!!! 花型の断末魔の獣のような悲鳴がフィールドに響き渡る。 花型「ぐっぎゃアアアアアアアアアアアッツ!!!!!!!!!!」 ブッシューーーーーーー 花型の切断した左腕がビクビクンと痙攣しヘビのように道路をのたうち廻る。 蒼い閃光だと思った神姫は真っ青なブルーの装甲に身を包んだ戦乙女型神姫だった。 瑠璃「・・・・スクルド・・・殺せ・・・」 虚ろな目をした瑠璃が囁くかのように指示を出す。 スクルドはヒュンと風を斬り大剣で犬型の首を斬り飛ばし、返す刀で花型にトドメを刺す。 犬型「ギッ・・・・」 花型「ぎゃ・・・」 一瞬にして2体の完全武装の神姫がコマ斬れのミンチになって道路に醜い残骸を晒す。 それと同時に半分朽ちたビルの陰からサイレーン型とウシ型が大小さまざまな大砲を抱えて躍り出る。 マスターA「いまだァ!!!!!!殺せェ!!!!!!」 セイレーン型「うおおおおおおおおおお!!」 ウシ型「ファイヤ・・・」 バッキンン!!ドンドンドンドン!!! スクルドの後方から鋭い光が一筋伸び、かすめるようにスクルドの横を通り過ぎ、ウシ型の胸部を貫く。 ウシ型「ぐべえェ!!」 ウシ型の胸部がボコンと大穴が開き、吹き飛ぶ。 セイレーン型「なァ!!」 遠距離から重武装に身を包んだワシ型の強化型がレールキャノンを構えて立っている。 瑠璃の横に座っている海原がニヤニヤと下卑た顔で笑いながら瑠璃の腰に手を回す。 海原「ぐへっへ、ええーでグロリアーナイスなアシストや」 瑠璃は虚ろな目でスクルドに指示を下す。 瑠璃「スクルド・・・殺せ・・・」 スクルド「イエス、マイマスター」 ヒュンと大剣を振るい、べったりと張り付いたオイルをはらうスクルド。 セイレーン型「う、うわあああああああああ!!!」 セイレーン型は狂ったように大砲、ボレアスを撃ちまくる。 スクルドは巧みな回避機動で攻撃を回避すると、そのまま速度を緩めずにセイレーン型に体当りをするように大剣で一刀両断に切り伏せた。 東條がマイクを強く握り締め、叫ぶ。 東條「勝者!!戦闘攻撃機型MMS 「グロリア」そして戦乙女型MMS 「スクルド」 」!!!100対2という圧倒的な物量の差にもかからわず激しい激戦を制した両者に惜しみない拍手を!!」 観客たちが立ち上がって拍手を行う。 ステージを見渡すと廃墟となったステージのあちこちでブスブスと暗い黒煙が上がり、町中に様々な神姫がぐちゃぐちゃになって残骸となって散乱していた。 そのシテージの横で悔しそうに地面を踏みしめるマスターたちの集団がいた。 マスターA「畜生ッ!!!畜生!!!」 マスターB「6000万よこせ!!!」 マスターC「ファックユー!!」 マスターD「キイイイイイイイイイイイ!!!キャアアアアアアア!!!」 海原が大声で笑う。 海原「ギャハッハハハ!!!面白いこと考えたな!!!グロリア!!!」 バトルが終わり、海原と瑠璃は船の先端に位置する視界270度の広々としたパノラマラウンジバーで豪華な夕食を楽しむ。海原の後ろには色とりどりの宝石のような大阪の街並みが広がり贅沢な空間が広がっていた。 グロリアはぺこりとお辞儀をする。 グロリア「お気に召しまして光栄です。マスター」 瑠璃「・・・・」 海原はぐいっと瑠璃の細い腰を抱き寄せて無理やり瑠璃の甘い唇を奪う。 海原「げっへへ、瑠璃ちゃんとこうやって一緒にバトルできるなんて興奮するじゃないか」 海原に弄ばれる姿を見てスクルドは心を痛める。 スクルド「っ・・・く・・・」 グロリア「先ほどの戦いの報酬は250万です。マスター」 グロリアは足でテーブルの上に散乱している札束の山を蹴る。 海原「んんーええよ、ええよーそんな鼻糞みたい金いらんわ、スクルドちゃんに約束どおり、あげえ」 グロリア「ということで・・・スクルド、この金はお前のものだ、お前が戦って稼いだ金だ。正当な権利だ。受け取れ」 スクルドは金を一瞥する。 スクルド「6000万という大金目当てで、まさか初日でこんなに稼げるとは思いませんでしたね・・・」 グロリア「今日は一気に25人のマスターと100体の武装神姫を2人でスクラップにしてやった・・・バカな連中だぜ、俺たちはSSS級とSS級だ・・・下手な雑兵神姫ごときで倒せるとでも思ったのが頭の悪さの証拠だな」 スクルド「この調子なら数ヶ月で6000万を稼げそうですね、マスター」 スクルドはにっこりと笑う。 瑠璃は虚ろな目で力なく答える。 瑠璃「・・・・そうね・・・スクルド・・・」 スクルド「私、がんばります。がんばって戦って戦いまくって絶対に「ゆうすけ君」を助けます!!!マスター」 瑠璃「・・・・・・うん・・・」 海原が瑠璃をぐいっと抱き寄せる。 海原「ふひひひ、瑠璃イ・・・よかったなァ・・・ゆうすけ君は助かりそうだな・・・まあ、俺の金でさっさと助けてあげてもいいが、やっぱりここは俺たちで協力してゆうすけ君を助けて上げないとなァーーーぬふふふ」 海原は瑠璃の胸をぎゅっとワシ掴みにしてチュッチュと瑠璃とキスをする。 瑠璃「ん・・・・」 海原「ぶへっへえ、瑠璃、可愛いぜェ」 グロリア「ヤレヤレ、マスターは変態だな」 海原「げへへ、瑠璃ちゃん、今日も激しくヤリまくろうぜ瑠璃―ふひひひ」 すりすりと瑠璃の柔らかい下腹をなぜる海原。 グロリア「スクルド、さっきの戦いをネットに中継して煽ろうぜ・・・今日みたいなあんなザコじゃ、お前一人でも十分なくらいだ。喰い足りねえ!!」 スクルド「そうですね」 グロリアとスクルドは、和気藹々とPCに接続して動画をネットに投降する。 【俺たちに勝てば6000万の金をやる。やりたい奴は一口10万で、かかってこいや!!】 アヴァロンの非公式バトルロンドのネット掲示板にこのような煽り文句が流れる。 グロリア「うん、いい感じだ。頭の悪さがにじみ出るぜ」 スクルド「この煽り文句を見て参加する神姫が増えるといいですね」 グロリア「参加する神姫の数よりも質だな、もっと強い奴が欲しい。ザコはいらねえ、明日も派手にやりまくろうぜ、スクルドーふひひひ」 グロリアは、にやにやと海原と同じような顔で笑う。 その横顔を見てスクルドは、ああ・・・神姫ってマスターに似るんだなァ・・・・とふと思った。 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>「敗北の代価 8」 前に戻る>「敗北の代価 6」 トップページに戻る
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主にその他とも言う設定紹介です。 施設・土地脩達の住んでいる「市」 ゲームセンター「フェザー」 市内西区大通り 倉根玩具店 市内北区駅前通り 中央・緑木通り高校 市内中央区緑木通り 南区自然公園 市内南区西寄り 施設・土地 脩達の住んでいる「市」 正式な名称が言及されていない、脩達が住んでいる市。規模は比較的小さく、上空から見ると歪だがひし形に見える。 北、西、東にそれぞれ列車や地下鉄の駅があり、周辺地域に移動する際の交通の要所になっている。特に人通りが多いのは北と東。 中央区と南区には地下鉄の駅しかないが、それぞれ要所には近い位置にあるので便利な方である。 主に、北は商店街、東はビル街、南は大型の公園や市民会館とマンション・アパートが多く、西は一戸建ての住宅等が多い。 中央区には神姫センターや大型の雑貨店、量販店が立ち並んでいる。 一応、神姫センターはあるが立地の関係か何か周辺のゲームセンターに客を取られている感が漂っているらしい。でも人が居ない訳ではない。 ゲームセンター「フェザー」 市内西区大通り 一~二年前に西区通りに出来たゲーセン。音ゲーを中心に揃えていたが、脩の2年生時の夏休みに武装神姫の筐体を2セットほど設置した。 それからは脩や近くに住んでいた神姫マスターが訪れるようになり、次第に人気が出始めて1月も経たぬうちに更に2セット増やした。 筐体は安くは無いはずだが、伝手で仕入れていると言っている。制限時間の設定のせいで地味に回転効率が良いので、意外と資金が溜まったとも。 また、フェザー独自の設定も多く見られており、他の店舗との差別化を図っているという。 店長はいつも目深に帽子を被っているが人柄は良く、数多くの人脈も持っていると噂になっている。伝手があるので本当に人脈は広いと知れ渡った。 店長以外の店員はなんと居ない。スペースだけが余っていたため一人でも余裕だとか。おかげで休憩スペースも広いし店内は解放感がある。 訪れる客や神姫マスターの雰囲気も良いし仲も良い。神姫とマスターのレベルは上から下までだが、下剋上がよく起きる。 また、誰が言ったのかとある異名持ちのせいで人が少なくても比較的多数のタイプの神姫を相手に出来るため、特に初心者は結構な経験が積めて日に日に平均レベルが上がっているという事になっているが真偽のほどは定かではない。 倉根玩具店 市内北区駅前通り 北区駅前通にある玩具店。だが実際には神姫8割だけど外から見ただけじゃ一目で神姫関連だと解らないという、隠れてる神姫ショップ。 オーナーでもある倉根敏明は最近注目されつつあるデザイナーであるほか、神姫のリペイントをする事でも有名。しかし、意外な事に自分の神姫は居ない。 また、多少抜けている所があり、クジの箱を良く見ないで適当に脩に渡したため、通常より更に高額な紗羅檀を渡す羽目になったりもしてる。 店の品ぞろえは武器からパーツから拡張アタッチメントやヂェリカンまで一通り揃っている。値段はまちまちで相場より安いのもあれば高いのもあると言った感じ。時折レア物が発掘される。 ちなみに、神姫8割の残り2割はパーティゲーム用の玩具等。 中央・緑木通り高校 市内中央区緑木通り 脩達の高校。中央とあるが実際はそれより南西寄りの位置にある、緑木通りと呼ばれるそこそこ大きい通りに面している。 校風は、何というか普通。特に変な規約も無い。また、市内の学生を一手に引き受けているため生徒数は多い。 だけど立地の関係上、学校施設はコンパクトで本校舎は5階建てであり、比較的最近に建てられたのか近代的な設備が整っている。 部活動は軒並み揃っているが功績はと聞かれるとまちまちとしか言えなかったりする。例外として演劇部だけは賞をいくつももらってる。 何故か3年と1年に強いマスターが多い。なので2年の神姫マスターは立つ瀬が無いと生徒の一人が言っている。 南区自然公園 市内南区西寄り 市内にある、そこそこ大型の自然公園。河が流れてたりボートが乗れる池(?)がある。 なにか市のイベントがあると大抵ここか隣接している市民会館が利用される。 利用する人は多々おり、花見の名所でもある。 また、野良時代のくーが1ヶ月ほど根城にしていた。
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十話 『十五センチメートル程度の死闘 ~1/2』 「あららん? その後姿はもしかして鉄ちゃんと姫ちゃんじゃないかしら。それとも私の気のせいかしら。 うん、きっと気のせいよね、失礼しました~」 背後から声をかけてきて一方的な納得をされ、そのまま私達とは別方向へ行ってしまおうとする紗羅檀さんに、私はなんとなく 『見覚え』 があった。 私の知る神姫なのだから 『見覚え』 があって当然なのだけど、ここで私が言いたいことは、そういうことじゃない。 その紗羅檀さんは人間サイズだった。目線が私より少し高いくらいだ。 腕と足は指先まで黒く染まり、胴体にあしらわれた金の意匠が微妙に安っぽく光を反射して眩しい。頭部をクワガタの鋏のように囲むアクセサリーもちゃんと再現されており、薄紫の長い髪も、武装神姫の紗羅檀と同じように整えられていた。 歩き去ろうとする紗羅檀さんの後ろ姿もやはり本物を再現されていて、だだっ広い改札口前を歩く老若男女の視線が、大きく開かれた背中に集中していた。 私達はただ、ポカンと口を開けたまま、その方を見ていることしかできなかった。手作り感溢れる艶かしいその姿に目を奪われるというより、感心していいやら呆れていいやら分からないといった感じだ。 よく出来ているのは認めるけど、人が行き交う日常に紛れ込んでいい姿じゃなかった。 恥じ入ることなく堂々とした紗羅檀さんの肩の上には、同じ格好をした身長15cm程度のオリジナルがいた。 「どこに行くのよ千早さん、そっちは神姫センターじゃないし、さっきの方達は気のせいでもなく鉄子さん達だし――ああもう! だからついて行きたくなかったのよ!」 チンピラシスターだったコタマでも軽くあしらってしまうミサキの、頭を抱えて取り乱す姿は新鮮だった。 「あらホント。鉄ちゃんと姫ちゃんと、それにボーイフレンズじゃない。あなた達も鉄ちゃんに謝りに行くの? あら、でも鉄ちゃんはここにいるのよね。あ、もしかして鉄ちゃんの双子のお姉さん?」 こちらに向き直り近づいてくる千早さんから、私以外は少し後ずさった。連れている神姫達も、神姫なのに大きいというチグハグさに少し怯えている。 「い、妹君、何ですかこれは」 「これ、とか失礼なこと言わんの。私がバイト先の物売屋でお世話になっとる千早さんよ。どうもです、どうしたんですかその格好」 「バカ、な~に話しかけてんの。他人のふりしろよ」 日頃の恩すら覚えておけない哀れなコタマを鞄の底に押し込んで、私は快く千早さんに近づいた。 背比と貞方、それに傘姫について来てもらっても、神姫センターに対する不安は拭いきれるものじゃなかった。電車に乗って、あとは神姫センターまで歩くだけ、というところまで来ても、いや来たからこそ、引き返したいと思う気持ちは強くなるばかりだった。千早さんの姿を見るまでは。 「奇遇ですね千早さん、私達も丁度神姫センターに行くとこやったんですよ。いやあ、ここでお会いできて嬉しいです。でも千早さんとミサキが神姫センターに行かれるとは知らんかったです。そのコスプレも良う出来てますし、なんか用事があるんですか」 「やあねえ、今日は鉄ちゃんに謝りに行くんじゃない。でも良かった、肝心の鉄ちゃんがいつ来るか分からないらしいじゃない? だからタロットで占って今日この時間だって見当つけたんだけど、どう? 私の魔術的才能はすごいでしょ」 「す、すごいです! 今度教えてください!」 (おい背比、なんで竹櫛さんはあの人と普通にしゃべれるんだ) (知らねーよ俺に聞くな。姫乃、竹さんとあの人って……) (尊敬してるって聞いたことある、けど、うん。えっと、私も千早さんは、す、すごい方だと思う、わよ?) (姫乃さん顔がひきつってますよ。マスター、あんまりあの人を見ちゃだめです。目の毒です) 私の背後で背比達がコソコソと話してるけど、どうせ千早さんの凄さを目の当たりにして尻込みしてしまってるんだろう。恥ずかしながら私も最初はそうだった。でも物売屋のバイトで度々千早さんとお茶を飲むことで私は、この人が21世紀のジャンヌ・ダルクと呼ぶに相応しい人物であることを知ることができた。この人と同じ年代に生きていられることに、感謝感激雨霰。 「ところで千早さん、私に謝りにってどういうことです? 千早さんに謝られることなんて何もされとらんです」 「さあ。それが私にもサッパリ。ミサちゃんは分かる? 私、なにか鉄ちゃんに悪いことしたかしら」 「……神姫センターに、鉄子さんに謝罪するという方が多くいると聞いて、じゃあ自分も行くと言い出したのは千早さんでしょうに。理由は聞いてないわよ」 ずいぶんと投げ遣りな物言いをするミサキだった。 「あらそう。でも何だか急に、鉄ちゃんに悪いことをした気になってきたわ。……本当にごめんなさい。私、ついカッとなって……」 「そ、そんな、頭を上げてください! 千早さんは全然悪くないですし、私のほうがいつも千早さんに迷惑ばっかりかけてます!」 千早さんに負けないよう頭を下げた私の肩に、優しく手がかけられた。そしてゆっくりと私の体を起こしてくれた千早さんは、いたずらっぽく笑いかけてくれた。 「じゃあ、別に悪いことをしたわけじゃない者同士、謝りっこはこれでお終いにしましょう。私と鉄ちゃんの間は前より4ミリも縮まったわよ」 「千早さん……!」 誰が見ていようと、私達は全然気にすることなく、改札口の前で熱い抱擁を交わした。紗羅檀コスプレのゴツゴツした部分が当たって痛かったけど、構わず千早さんに甘えた。 「妹君、そろそろ……」 マシロに促され、名残惜しみながらも千早さんから離れた私は、躊躇うことなく神姫センターへの歩みを進めた。すぐ後ろの千早さんが集める視線と、少し遅れてついて来る背比達が、私を得意な気分にしてくれた。 体が軽い。 こんな幸せな気持ちで歩くなんて初めて。 もう何も怖くない! ドールマスターがリアルドールを連れて来た。 人間大の紗羅檀の登場に、神姫センターはイベント時のような賑わいを見せた。 パーツを物色していたお客も、私を見るなり店長を呼んでくると言う店員も、その目は千早さんに釘付けにされていた。 小走りでやってきた冴えないおじさん店長は千早さんに驚きつつも、私の前でペコペコと頭を下げた。そして懐から封筒を取り出し、中身を私に見せた。 「こちらをお出し頂ければ、武装神姫1体をお持ち帰り頂けますので、はい」 もうコタマはレラカムイとして復活したと告げても、店長は引換券の入った封筒を無理やり私に握らせた。 「貰えるもんは貰っとくもんだよ鉄子ちゃん。いらないんだったら隆仁にでもあげたら? アタシのこの体でストックが無くなっちゃったらしいし」 それもそうか。コタマの言うとおり後で兄貴に渡すことにして、封筒を鞄にしまった。 店長の話だと “あの時” 居合わせた神姫オーナーの数人が2階に来ているらしい。 “あの時” に誰がいたかなんて覚えているはずないのに、それでも顔だけ出してくれ、と言う。昨日、貞方が見せた写真に映っていた神姫は明らかに “あの時” にいた神姫の数を上回っていたことだし、戦乙女戦争のように無関係な神姫までノリで筐体に立てこもっているのだろう。 そういえば店内にはお客の対応とディスプレイを兼ねた神姫達がいるはずだけど、今は一体も見当たらない。彼女達も恐らく、2階の筐体の中にいる。店長の平身低頭ぶりはこのためかな。 「じゃあ竹さん、行こうか」 湿った手を握りしめ、私達は2階への階段を上がった。 神姫が集まった森の筐体の中は、画像で見るよりもずっと酷い有様だった。バッテリーを切らしてしまっった神姫が半分ほどいて、起きている神姫達は私が近づくなり 「ほら、ドールマスターが来たよ! 早く謝れ! ハリアッ!」 とかなり焦っているようだった。 名前も顔も知らぬオーナーに謝罪されても、私は曖昧な返事しかできなかった。いくら千早さんの登場で気分が高揚していたって、ハーモニーグレイスだったコタマの無残な姿を忘れることなんて、できるはずがなかった。 沈黙する私と、気まずそうに目を泳がせる名も知らぬ悪者。 「さっさと土下座するですぅ!」 と煽る神姫達。どうしようもない雰囲気が流れ始めた時、鶴の一声が私の鞄から響いた。 「な~にゴネてんだ面倒臭え! いつまでもウジウジやってんじゃねぇよ鉄子ちゃん。こんな連中ホントはどうでもいいんだろ、さっさと追い返せよ。オマエらもいつまでも筐体で森林浴してんじゃねぇよ、この森ガール共が! バトルできねえだろうが!」 甲高い声でやいのやいのと騒ぐレラカムイに不審の目が集まった。でもその乱暴な口調には覚えがあったらしく、私が新生コタマを紹介すると、みんなドールマスターの復活を喜んでくれた。これで神姫達はようやく溜飲を下げてくれた。 神姫達がゾロゾロと筐体から出てきたけど、バッテリーが切れた神姫をおぶる者や、オーナーが一時帰宅していて帰れず、筐体の中に留まる者も多くいた。事の収束にはもう少し時間が必要みたいだ。 千早さんとミサキの即席撮影会が賑わう間、1階のショップでは急速充電器が飛ぶように売れ、それを2階のフリースペースに持ってきて使うオーナーが多数いた。帰宅せず神姫センターに残るオーナーのやることは、2つ。 まず1つは当然、大きな紗羅檀の姿を目に焼き付けること。 紗羅檀の際どい衣装は単細胞なオーナー達をあっという間に虜にしてしまった。 鼻の下を伸ばして不躾な視線を送り続ける単細胞共は不愉快でしかなかったけど、囲まれた千早さんは寛大で、カメラに向かってグラビアのようなポーズをとっていた。 「どうしましょうミサちゃん。一度でいいからモデルをやってみたかったんだけど、それが叶っちゃった。後でヤコくんに自慢しなくちゃ」 「八幸助さんには絶対に言わないで頂戴。自分が既婚者ってことをもう少し――そこ! カメラを下から向けない! ほら千早さん、胸の武装がズレかかってるじゃない、早く直して! 何見てるの、見世物じゃないのよ! こ、こら、私を撮影してどうするの! やめなさい! あああああもう! これだから外に出るのは嫌なのよ……!」 この日を境に千早さんが神姫センターで神格化され、物売屋のお客が少し増えたのは、また別の話。 そして、もう1つ。今日のメインイベント―― 「『グレーゾーンメガリス!』」 多数の神姫に紛れて助走をつけたマオチャオが、大きなハンマーを振りかぶって飛び出した。セカンドのライフルで近づく神姫を一掃していたコタマの虚をついた、上手い一撃だ。見ている俺達が、コタマのなぎ倒される姿まで想像したその一撃を、 「おっと」 の一言でファーストを送り出して、片手のガントレットでハンマーを容易く止めてしまった。 「クソッ、技のキレが増したなシスター!」 「もうアタシはシスターじゃないよん。それとアンタのその技は一度見てるからね、実は最初からちょっと警戒してたもん」 ファーストにハンマーを掴まれたマオチャオがハンマーから手を離して離脱するより早く、セカンドのライフルが火を吹いた。 ファーストとセカンドの両方が一匹のマオチャオの方を向いた瞬間、コタマの背後から多数の神姫が襲いかかった。その気配を察してなお、コタマの余裕の笑みが崩れることはなかった。 蘇ったドールマスターとの勝負を望む者は多く、せっかく人数が集まっているのだからと、大規模なチーム戦……とは名ばかりの、モンスター狩りが始まった。 竹櫛家 VS 機械少女連合軍 15cm程度の死闘トップへ
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SHINKI/NEAR TO YOU Phase02-3 『さあ! 今年もやってきました神姫センター春の祭典、マヤノスプリングカップ! 先日行われた一般トーナメントに続き、子どもの日である本日は小中学生によるジュニアトーナメントが開催されます。若人たちが熱きバトルを繰り広げるこのトーナメント、今年は第一試合から注目の参加者が登場だぁっ!!』 マイクを持った司会者はそこで一拍置くと、筐体の一角にスポットライトが当たる。 『当神姫センター注目の上位ランカー! 女子中学生にして総合ランキング6位の実力者、伊吹舞とその武装神姫、マオチャオのワカナだぁぁぁっ!!』 筐体のシートに腰掛ける伊吹とエントリーボックスに立つワカナの姿が、ライトに照らされながら手を振る。周りの観衆から送られる盛大なエール。 その光景をシュンは隣のシートから、あっけに取られて眺めていた。 「伊吹とワカナ……すごい人気だなぁ」 「ランキング上位者で、優勝候補ですからね。当然ではないでしょうか?」 「……まあね。その代り僕たちは完全に空気だけど……」 続いて司会者がシュンとゼリスを紹介するものの――伊吹のクラスメイトである新人マスターとその神姫、程度の簡素なものだった。 ゼリスがジュニアトーナメント参加者にしては珍しい、オリジナル武装タイプであることがちょっと関心を集めたようだが……観衆の興味は完全に伊吹とワカナに集中している。 もっとも、それで言ったら可哀相なのは対戦相手の方か。 向こうも中学生同士のコンビらしいが、ガチガチに固まって完全に緊張している。……まあ、一回戦から優勝候補と当たってしまったんだから当然かもしれない。 だからといって、同情している暇はない。シュンだって公式大会は初参加だし、ゼリスはオーラシオン武装で初の実戦だ。遠慮なんてしている余裕はない。 ゼリスとワカナ、そして相手の神姫二体が筐体にエントリーしていく。 その間に、シュンは伊吹と簡単な作戦会議を済ませる。 「まずワカナが前衛に出るから、ぜっちゃんは後衛についてサポートよろしくね?」 「リョーカイ。それでいいよな、ゼリス?」 「はい、問題ありません」 シュンに頷き返しながらゼリスがバトルフィールドに出現する。オーラシオン武装の白い装甲が、ライトに照らし出され美しく映える。 4体の神姫がそれぞれフィールド上に配置される。 『REDY GO!』の合図で試合が始まった。 「いっくよ~っ!」 試合開始と共に、ワカナが相手に向かって突進していく。 ふいを突かれた相手の神姫――二体の天使コマンド型ウェルクストラが慌てて散開する。 「ワカナっ、左の相手に攻撃よっ!」 左に逃げた一体がバランスを崩した隙を見逃さず、伊吹の指示に従ってワカナが装甲一体式のナックル――裂拳甲(リークアンジア)ですかさずラッシュをかける。 防戦一方になる仲間を援護しようと、もう一体のウェルクストラがサブマシンガンを構える。が、それを別方向からの銃撃が阻む。 ハンドガンを構えたゼリスが、的確な射撃で相手の動きを封じていた。 「よしっ! ゼリス、そのまま牽制だ」 「どちらかと言えば、私も接近戦の方が好みなのですが……」 「おいおい……慣れない武装でいきなり無茶しようとするなよ」 渋々といった様子で、ゼリスは指示通り相手の一体と距離を置いての射撃戦を開始する。 ウェルクストラのアルヴォPDW11に比べ、ゼリスの使っている専用ハンドガン"エスぺランサ"は連射力で劣る。しかし、ゼリスはフィールドの遮蔽物を巧みに利用しながら互角の撃ち合いを演じていた。 新武装の調子も、今のところは特に問題無いようだ。 撃ち合いを続けながらゼリスはウェルクストラを徐々に誘導し、仲間と分断させる。 相手が気がついた時には、すでに離れたもう一体のウェルクストラはワカナの猛攻にさらされてKO寸前となっていた。 こうなってしまえばもう、勝負は決まったも同然だった。 試合開始から1分後―― 『これはつよぉぉぉいっ!! ワカナ&ゼリスチーム、怒涛の攻撃で相手チームを連続OK! 優勝候補が見事、初戦を圧勝で飾ったぁ!!』 シュンたちは危なげなくトーナメント一回戦を突破した。 * トーナメント大会は神姫センター5階のアミューズメントフロアが会場となっている。 このフロアの一角には神姫に関する講習会を開くためのセミナールームもあり、そこがトーナメント参加者の控え室となっている。 一回戦を終えた後、シュンたちはそこでゼリスたちのコンディションをチェックしていた。 「ふう~、パーツはどこも問題無さそうだな」 「シュン。問題が無いのなら、次はもっと積極的に攻めてはどうでしょうか?」 「……ダメだ。それでトラブルが発生したらヤバいだろう」 シュンにたしなめられ、ゼリスは「むぅ~~」と不満ながら一応納得する。 現状では、まだ不安が残るオーラシオンの肩アーマーパーツ。姿勢制御とメインスラスターを兼ねるこのパーツこそ、ヒット&アウェイを主体にした機動戦での要になる。 万全でない状態で全開戦闘を行って、もし不調を起こしでもしたら……たちどころに窮地を招く結果となるだろう。 「大丈夫よ、ぜっちゃん。このくらいの大会ならワカナだけでもラクショーよ。心配しなくてもオーケーオーケー♪」 伊吹は呑気にモニターで他の試合を観戦しながら、余裕の表情をしている。その隣のクレイドルでは、ワカナがさっそく昼寝タイムに入っていた。緊張感のないコンビだなあ…… 本物の猫みたいにゴロゴロ眠る姿からは、このワカナが一回戦で嵐のようなラッシュで一体目を倒し、二体目もあっという間にノックアウトしてしまったスーパーファイターとは思えない。 能ある鷹は――もとい、猫は爪を隠すってやつか? 最後のフィニッシュは研爪(ヤンチャオ)で決めてたし。 「ふむ……確かにワカナさんの強さなら、私たちはバックアップに徹するだけでも勝ち進めるでしょうね……」 同意しつつ、ゼリスの口調はいつもと違って歯切れが悪い。 「ゼリス。思う存分戦いたいだろうけど、もうしばらくは我慢してくれよ。せめてユウが来るまではな」 由宇がゼリスのメカニックについて、最終的な調整をしてもらえば後は思いっきり戦っても大丈夫だろう。 そのためにも、しばらくはこのまま堅実に戦ってデータを集めないと。それになんだか今のままでも、伊吹とワカナだけでトーナメントを勝ち進めそうだし…… (下手にリスクを負うこともないよな。このまま勝ち進めるならそれでも……) そこまで考えて、シュンは何か胸につっかえるものを感じる。 なんだろうこの感覚は。このまま何もしないで勝ち上がれるなら、問題はないはずなのに。 ……何もしなくても? 「シュン……シュン!」 ゼリスに袖を引っ張られ我に返る。 気がつくとゼリスがジッとシュンを見上げていた。澄んだエメラルドの瞳に見つめられ――シュンは気まずくなって目を反らす。 「シュッちゃんどうしたの? 急にボーっとしちゃって……」 「なんでもないよ。えっと……喉が渇いたから、ちょっとジュース買ってくる」 不思議がる伊吹にとっさに言い訳をしつつ、シュンはその場から逃げるように席を立った。 控え室のドアをくぐると、トーナメント会場の歓声がここまで聞こえてくる。 あたかも試合の熱気までそのまま伝わってきそうだ。こうして外野から眺めてみると、さっきまで自分もいたはずのその場所が――まるで別世界のように感じらる。 群衆の中を歩き、シュンは一人考える。 このままシュンが何もしなくても勝ち進める。 試合は伊吹とワカナに任せればいい。特に指示を送らなくても、ゼリスはバックアップくらい無難にこなすだろう。あとは由宇の武装の調整がうまくいけば、何の問題もない。 ――それで? 問題なかったとして、その中でシュンは何をしたと言えるのだろう。そんなんでゼリスのマスターって言えるのか? 僕には一体、何ができるんだ――。 (僕はゼリスのマスターであっても、ひょっとしてあいつにとっては必要な存在じゃない……のか?) 伊吹とワカナはもちろん、由宇もゼリスもすごいヤツラだ。一緒にいるシュンだからこそよく分かる。 でも……彼女たちに比べれば、自分は何もできない凡人に過ぎないのではないだろうか。 考えれば考えるほど思考がマイナスになっていく……。 シュンはまとわりつく不安を振り払うように、強く頭を振る。 (とにかく今は次の試合だ。こんな気持ちのまま周りの足を引っ張っりでもしたら、余計にダメダメじゃないか) シュンは強引に思考を切り替える。みんなのところに戻ろう……そう思い、踵を返したところで気がつく。 あ……そうだ。一応ジュースを買って帰らないとおかしく思われる。伊吹はあれでなかなか鋭いし、ゼリスもなんだかんだで敏感にシュンの気持ちを察してくる。心配をかける訳にはいかない。 自販機は確かフードコートにあったはず――くるりと振り返ったところに、いきなり何かが激突した。 「うぎゃ~~っす!!?」 シュンが驚きの声を上げるより先に、甲高い悲鳴が聞こえてきた。 顔を上げると、目の前に武装神姫を連れた少年が転がっていた。どうやら彼がシュンにぶつかってきた相手らしい。 転んだ拍子に打った膝の痛みに顔をしかめつつ、シュンは立ち上がりながら少年に手を差し伸べる。 「えっと……君、大丈夫?」 「おっと。こりゃ兄ちゃん、すんまへんなあ」 彼の手を取って関西弁の少年が立ち上がる。 シュンと同年代か少し下くらいだろうか? 快活そうな男の子だ。 「ごめんな、兄ちゃん。オレこっちの神姫センターは初めてでな~。ちょっと迷ってもうて、急いでたんや」 「なるほどね。でも人が多いところでは、あまり走ったりしない方がいいぞ?」 「うん、これから気をつけるわ!」 シュンが注意すると少年は素直に頷いた。……うんうん、元気があって大変よろしい。 妹がいるせいか、年下の相手にはついつい兄貴ぶってしまうのがシュンの癖だった。 「あかんわっ、大丈夫かフッキー!?」 フッキーと呼ばれた少年を心配するように、肩に乗る彼の神姫――寅型MMSティグリースが騒ぎ立てる。 どうやらさっきの悲鳴も、この神姫のものだったらしい。 「心配あらへん。こんなんちょっと転んだだけやし」 「せやかてフッキー! アンタ耳たぶがこんなに大きく腫れ上がってしもうて……」 「アホかっ、この福耳は生まれつきやっちゅーねん!」 突然始まったボケとツッコミの応酬に、あっけに取られるシュン。 ……なんだこのふたり。神姫とマスターでお笑いコンビでも目指してるのか? シュンの様子に気がついて、関西弁の少年――フッキーが照れ臭そうに笑う。 「あ~、すんまへん。こいつ気がつくと、すぐ今みたいにボケ始めてな~。ホンマ誰に似たんやろうね?」 「マスターのアンタに決まっとるやんっ!」 ビシッとツッコミを入れるティグリース。ダメだこのふたり。放っておくと、いつまでも延々漫才トークを続けそうだ。 「あの……コントの最中に悪いけど、君たち急いでたんじゃないのか?」 シュンが指摘すると、フッキーとティグリースはハッと気がついて慌て出す。 「そやった、オレら急いでるところやったんや!」 「あかんでフッキー……早くせんと遅刻してまうで?」 「おお、そんなんなったら怒られるで。じゃあな、兄ちゃん。またどっかで会おうな!」 早口で捲し立てると、少年と神姫はすぐさま人混みの中に消えていった。 シュンは笑いを堪えつつ、そんなふたりに手を振って見送る。 やれやれ……何というか慌ただしいコンビだった。お蔭でさっきまでいろいろ滅入っていた気分が吹き飛んでしまった。 なんだかスッキリした気分で、シュンは控え室に戻る。 彼がジュースを買い忘れたことに気がついたのは、そのことをゼリスに指摘されてからだった。 ▲BACK///NEXT▼ 戻る
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武装神姫…今現在爆発的なブームを誇り、その老若男女を問わない人気は旧世紀の ヒット商品、ポケモンや遊戯王カードもかくや。いや、それ以上であろう。 かく言うオレ──日暮 夏彦も、もはや社会現象とさえ言えるそのヒット商品の恩恵に 与ってる一人だ。 「おし、掃き掃除終了…っとぉ」 ゆっくりと伸びをして、目の前の看板を見上げる。 「ホビーショップ エルゴ」三年前に親父の模型屋を改装して始めたオレの城だ。 玩具オタが高じて工学部に通った身の上としては、そのスキルを存分に活用出来る天職。 特に神姫関係には力を入れてて、販売、登録、修理、カスタマイズやオリジナルパーツ の製作まで何でも御座れだ。 そんなに大きな設備じゃないがバトルサービス用の筐体も借金して導入済み、 公式ショップにも登録してある。 そんな努力の甲斐もあってか商売としてはそこそこ快調。 近所の神姫ユーザーには結構支持されてるし、健全経営とは言えないが俺一人 生きていくには問題ない収入がある。 それに…ウチには他の店には無いウリがもう一つあるのだ。 「みなさん、家に帰るまでが学校とはよく言った物。無事にお家に帰る事は当たり前に 見えて大切な事です」 「特に、小さなマスターを持つ神姫はまだまだ充分な注意力を持たないマスターに 代わり、その安全を守る事も大切なお仕事です」 「ですから、マスターと逸れない様にして、しっかりお家に帰りましょうね」 『はーい!うさ大明神様ー!!』 自動ドアを開けて店内に戻る俺の耳に、凛とした女性の声と大勢の少女の声が響いた。 そして、大小さまざまなご主人様に連れられて神姫達が帰っていく。 「毎度ありがとう御座いましたー!」 愛想よくすれ違いに店外へ出て行く客に声を掛け、店内へ戻る。 「よ、御疲れ。大明神様」 声を掛けるのは店内に設えた1/12の教室、その教壇に設えられたハコ馬にのる胸像へ 向けてだ。 「マスター…貴方までその名で呼ぶのは止めて下さい」 非難がましく返事を返すその胸像こそがオレの神姫ジェニー。 所謂ヴァッフェバニータイプってヤツだ。 元々強化パーツとして販売されたこのタイプには素体が付いていない。 その代わりにディスプレイ目的の胸像パーツが付いてたのだが、 ある理由から素体の都合がつかなかったオレが間に合わせにその胸像パーツを チョチョイと改造してボディ代わりに使ってるのがコイツってワケだ。 その姿は旧世紀のバラエティで定番だった銅像コントのあのお方の如し。 その威容をして生徒達からは「ウサ大明神様」の名で親しまれている。 いや、子供の発想力ってのは素晴らしい。ソレが人間でも神姫でも。 っと、説明が前後した。ウチの他に無いウリってのはつまり…この神姫の学校だ。 事の起こりはオレがまだ学生の頃、バイトで塾講師をしていた頃に遡る。 当時塾では生徒の神姫持ち込みを禁止してたのだが、子供がそんな事守るワケもなく それなりに問題になっていた。 で、何をトチ狂ったか塾の方針として勉強中は神姫を預かり、 神姫にも人間社会について勉強を教える。なんて事になってしまったのだ。 そんでもって、白羽の矢が立ったのが既に塾講師内にも玩具オタが知れ渡っていた俺。 …ヨド○シに開店ダッシュは未だに若気の至りだったと思う。 あれさえ目撃されなければ。 とりあえず俺を呼び出した時の塾長の台詞「どうせ持ってるんでしょ?神姫」はかなり トサカに来た事を覚えている。 しかも確かあの時、あの親父は半笑いだった。畜生。 って、それは置いといて。 結局、俺と俺の神姫…ヴァッフェバニーのジェニーは神姫担当教師としてバイトを 辞めるまでの間、しこたま働かされたワケだ。 店を継いだ頃、まだ客足の少ない店への呼び水としてジェニーがもう一度教室を やったらどうかと提案して来た時は少し渋ったが、やってみれば事のほか評判も良く、 実際ウチの店を知って貰ういい切っ掛けになった。 多分オレ一人ではこうはいかなかったろう。 いや、実際腕さえ良ければなんとかなると思ってた俺としては、ジェニーへの感謝は してもしきれない。 「なら、新しい素体買って下さいよ」 「いや、大明神様が居なくなったら純真な子供達の夢が壊れるだろ?」 心を読んだかのようなジェニーの呟きに、即座に返す。なんかブツブツ言ってるけど メンドいので脳内スルー。 「さ、仕事仕事ー」 今日中にカスタマイズせにゃならん神姫が3体。いつまでも遊んでは居られんワケで。 大人は大変なのよ。 「今日も一日、良く働いたねー」 大きく伸びをして時計を見れば時間は午後8:56分。そろそろ閉店時間だ。 そんな平穏を破り、ドタバタと足音を響かせて客が店に転がり込んで来た。 文字通り、転がるように慌てて。 「すいません、まだやってますかっ!?」 …うん、もうしばらくは閉められそうにねぇや。 やって来た客は高校生ぐらいか? 話を聞けば彼のストラーフ「コラン」があるバトルを境にまったく動かなく なったという。 どのショップ、果てはメーカーに問い合わせてもどこにもハードの故障は無く、 プログラムだけがごっそりと無くなっているのだそうだ。 故障として新しいプログラムのインストールを推奨されたが、それはもはや彼の神姫 とは別の物になるという事。 彼はなんとか自分の神姫を救うべく、藁にもすがる思いでウチの評判を頼みに 尋ねて来たのだそうだ。 「少年、キミが最後にやったバトルってのはどんなバトルだったんだ?多分、原因は ソレだぜ」 さっきから、何度もした問い掛けを繰り返す。 この話になると歯切れが悪くなるのは…何だかな、察しは着くが。 「別にオレはメーカーの人間でも警察でもない。例えば…キミが非合法のバトルを やっててもソレで修理を断ったりはしない」 カマを掛けてみる。見る見る青ざめていく少年の顔が、複雑に表情を変えた。 「…ごめんなさいっ!」 開口一番大声で謝り、俯く少年。その肩を叩いて宥める。 ま、バトル派の神姫ユーザーにゃ意外とあるケースだ。 「僕…結構リーグでいいとこまで行ってて…自分の実力を確かめたくて… アンダーグラウンドのバトルに参加したんです」 「…その、最近パーツとかの遣り繰りに困ってて、賞金が欲しかったていうのは あるんですけど…」 申し訳無さそうに少しづつ言葉を絞る少年。頷き、黙って話しを聞く。 「…でも、こんな事を望んでたワケじゃない…バトルは勝ちました、賞金も出ました。 でも、僕のストラーフ…コランが帰って来ない…それじゃ意味が無いんです! 彼女が居ないと…何で…どうしてこんな事に…」 少年の肩が小刻みに震えている。…経緯はどうあれ、自分の神姫の為に泣ける…か。 「少年、そのバトルの参加方法とか解るか?」 「ネットワークのバーチャルバトルです。不具合を調べる時に、関係有るかと思って ログはとってます…」 「でも、そのサイト何時の間にか消えてて…裏バトルだから当たり前なんですけど…」 ログがあるなら話は早い。 「…そのログ貸してくれ。オレが必ず君のストラーフ──コランを直してやるから」 少年が目を見開いてこちらを見る。慌てて鞄からメモリーカードを取り出し。 「このカードに入ってます。あの…お願いしますっ!」 土下座せんばかりの勢いで頭を下げる少年に頷き、もう遅いからという理由で 今日のところは帰した。さて… PCのモニター上をとんでもない速さで流れていく文字の羅列を見ながら、嘆息する。 オレもそこそこやれるつもりなんだが…やっぱコンピュータ自身にゃ勝てんな。 …オレはオレの仕事しよう。携帯電話を取り出し、コールする。 「はい。KMEE神姫バトルサービスサポートセンターで御座います」 受付嬢の柔らかくも清潔感溢れる声が電話の向こうから響く。 いや、何を緊張してるのかオレ。 「あ、私日暮と申しますが。今米主幹いらっしゃいますか?」 「今米で御座いますね?少々お待ち下さい」 おお、良かった。不審がられたらどうしようかと思ったよ。 「もしもし?今米だ。お前か日暮?」 受話器から聞こえるゴツくてかつ加齢臭溢れる声に現実の無常さを感じる。 「うす、今米さん。今なんかトラブってる?神姫強奪事件とか」 「神姫狩りの事か?そりゃ困ってるが…今に始まった事じゃないだろ。 こっち側が噛んでるケースもあるしなぁ」 「いやいや、そういう必要悪じゃなくて。もっとどうしようもねーの」 歯切れの悪い答えを返す今米さんにさらに突っ込む。本気だかはぐらかしてんのか 読みにくいんだよなぁ、この人。 「まぁ、神姫絡みの犯罪やトラブルってのは悲しいかな右肩上がりだからな。しぼれんよ」 「ええと、一見故障じゃないんだけどデータだけごっそり無くなるってヤツなんだけど?」 受話器の向こうからキーボードを叩く音がする。 調べ始めて十数秒ほどか、返事が返って来た。 「ちょっと待て…それならカスタマーやウチを含めて18件来てる。何か掴んだのか?」 お、ビンゴ。 「ああ。ウチの客が被害にあった。今夜辺りなんとかするつもり」 「そうかそうか。そりゃいい、宜しく」 「で、いくら出す?」 「おい待て!?どうせウチとは関係なくやるんだろ?何で身銭切らなきゃならんのだ」 ちぃ、やっぱそう来るか。進歩ねぇな、オレも今米さんも。 「データ、そっちでサルベージした事にしたら評判上がるんじゃねーの? 企業イメージって大事よ、このご時勢」 「む…そりゃそうだが…しかしなぁ」 「どうせこれからたっちゃんに頼むし。嫌なら別にいいけど」 たっちゃんてのは古馴染みの警部さんだ。神姫関連犯罪の担当で色々と世話したり されたりのまぁ、腐れ縁である。 「あー、わかったわかった!そのかわりデータは大丈夫だろうな?」 「任せとけよ。んじゃ、報酬ヨロ」 電話を切る。おっしゃ。これで年末商戦向けの仕入れ費用は何とかなりそうだ。 「ジェニー、どうだ?」 アクセスログから例の違法バトルのサーバを探しているジェニーに声を掛ける。 「見つけてます。ウラも取れそうですよ」 「さっすが。しかし、人の神姫…しかもパーツじゃなくてデータだけなんてな」 「強力なランカー神姫だけ狙うってんならともかく、ランダムだろ?どうすんだか」 溜息混じりにジェニーが答える。 「他人の持ち物を所有したいなんて有り触れた願望だと思いますよ? 肥大した支配欲…とでも言えば的確ですかね」 「そういう向きに高額で販売する…愛玩用のボディにでも入れて。そんなトコでしょう」 冷静に説明してみせるその姿は一見クールだが…解る。 怒ってる、怒ってるよジェニーさん。 「ヘドが出るな」 ま…気分悪いのはオレも同じなんだが。 「準備、出来ているならそろそろ行きませんか?」 「まー待て、連中の潜伏先をたっちゃんに流す」 「猶予は…今23時か。2時間でいいな?」 「充分です」 力強く頷くジェニーに頷き返し、準備を始める。さぁ、久しぶりの副業だ。 >頭部パーツを複合レーダーユニットに換装。マルチバイザー装着。 >コアユニットパージ。メインボディに接続... >ヴァッフェバニーtypeE.S 「Genesis」起動..._ モニターに映し出される文字が彼女の目覚めを告げる。 オレの武装神姫。 Encount Strikerの名を持つカスタムヴァッフェバニー、ジェネシスが。 E.S…遭遇戦域対応を目的とした銀の可変アーマー「シャドウムーン」と背中の複合兵装 「ブラックサン」大型装備は背部ブースターから伸びるフレキシブルアームで全て接続。 移動は全てフライトユニットで行い、状況によって装備位置の変更、可変によりあらゆる 戦況に対応する特別仕様機。 全身フルカスタマイズ、武装も全てオレが玩具コレクションから厳選して改造した ワンオフ品。 本来のレギュレーションを逸脱したその姿はもはや公式戦に参加する事も適わない、 戦う為の神姫。 だが、俺達には必要な力だ。 そうオレとコイツ…「正義の味方」には。 ジェネシスをPCと接続し、ネットワークにダイブ。彼女の眼を介して広がる電脳世界を 駆け抜けていく。 意識を集中し、一心不乱にキーボードを叩くこと数分。例のサーバーに到着した。 情報を偽装しセキュリティホールを開けて侵入を開始。違法バトルのシステムに侵入。 公開ユーザー名には「G」とだけ入れる。コイツがオレの通り名だ。 「ジェニー…いや、ジェネシス。もうすぐ入り口が開く。今回のミッションはサーバーに 侵入後、軟禁状態の神姫を解放。オレの開けたセキュリティホールを経由して転送される 彼女達の護衛だ。行けるな?」 「了解」 「よし。ミッションカウントスタート!状況開始だぜ、相棒」 電脳世界とはいえ…その住人から見れば、往往にして実体を備える世界を形成して 見える。 サーバー内に広がる風景は鬱蒼と茂る森と光を遮る曇天。そして、その中心に聳える 重苦しい、監獄の様な屋敷のみ。 「雰囲気出してんなぁー…」 感心半分呆れ半分、呟く俺。 「マスター、索敵範囲に神姫一体。斥候でしょうか?」 「ちっ…調べられるか?」 「向こうにも気付かれました。近い…マシーンズ反応有り。波形からマオチャオタイプと 推察します。迎撃許可を」 「許可。マシーンズ撃退後本体は捕縛だ」「了解」 ブラックサンに積んだストフリ流用のドラグーンシステムが分離し、マシーンズを正確に 捉える。 相手の反応はまだ無い。レーダー反応精度はこちらが上か。 一度きりの発射音の後、ばたばたと倒れて目を回す、ぷちマスィーンズ。 「にゃにゃっ!?」 茂みから聞こえるその声に、指示を出すより早くジェネシスが反応した。 「其処ですか!」 腕部に装備したアムドラネオダークさん流用のワイヤークローデバイスがマオチャオを 掴み上げ、天高く引き上げる。 おー…猫の一本釣り。 「ひぃやぁーっ!?た、助けて欲しいのにゃー!リィリィお家に帰りたいのにゃー!」 ん?コイツ攫われた神姫か? ワイヤーを巻き取ったジェネシスが衝撃で跳ね上がるマオチャオ…リィリィだっけか。 …を抱き止めた。 「大丈夫。恐くないから…良く頑張ったわね?」 一瞬で柔らかい雰囲気を作り、リィリィの頭を撫でて優しく接する。慣れてるな大明神。 「ふえ?おねーさん…ダレにゃ?」 きょとんとした顔のまま尋ねるリィリィに、オレとジェネシスはここぞとばかりに 不敵に答えた。 『正義の味方…って事で』 「では、あの屋敷に皆捕らわれて居るんですね?」 「そうにゃ、バトル終わったのにリィリィ達ばとるふぃーるどから出られないのにゃ。 そしたらカタクてゴツイのがいっぱい出てきてみんなを捕まえて連れてったにゃ」 リィリィが俺達を案内しながら経緯を説明する。思い出してしまったのか元気がなく、 その声も悲しげだ。 「大丈夫…絶対に助けます」 決意のこもったジェネシスの声。固いヤツだと普段は思うが、こういう実直さは 誇らしくもある。 「はいにゃ…」 嬉しそうに微笑むリィリィの声が、オレの決意も新たにする。 その時だった。前方の地面が唐突に盛り上がる。いや、捕縛者…そいつらが現れたのだ。 「で、出たにゃ!アイツらにゃ!」 慌てふためくリィリィ。とりあえす置いといてそのプログラムを解析する。 神姫と思しき特長は無い。 「捕縛プログラムだな…改造してあるみたいだが、ベースはブロックウェアだ。 多分、特徴も見た目通り」 「つまり…硬い代わりに動きは遅いと」 ブラックサンを前方に構え、トリガーロックを解放する。 前方が展開しメガキャノンモードへ。 「シュート!」 ジェネシスの掛け声と共に放たれたビームの一撃が、一挙に二体を薙ぎ払う。 しかし、安心した瞬間今度はサイドから捕縛者が現れた。 潜行して距離を詰めたか、近い。 「おねーさん、遠距離攻撃型にゃ!?早く逃げるにゃ!」 リィリィが逃げる隙を作ろうとその爪を構える。 「心配後無用」 手品師の様な口調で呟くと、ジェネシスがモードを切り替える。 ブラックサンのサイドのビーム発振機から伸びるビームが重なり、繋がり… 巨大なビーム刃を形成する。 機構はフルスクラッチだが原理はムラマサブラスターと同じだ。 読んでて良かった、クロボン。 体ごと振り回すその巨大な刃に切り裂かれ、さらに周囲を囲んだ4体が破壊される。 「す…すごいにゃぁ…」 リィリィも呆気に取られるばかりだ。いや、ムリもないけど。厨装備でゴメン。 その後も散発的に敵は現れたが、特に問題になる様な事も無く屋敷まであと一歩と いうところまで辿り着いた。 ふと、暫く黙り込んでいたリィリィが口を開く。 「おねーさんのその装備は、どこで買ったのにゃ?」 「いえ、これは全てマスターのお手製なんですよ」 一瞬きょとんとした表情を浮かべるも、微笑みながら答える。 「そうなのにゃ…残念にゃ。リィリィも強力な装備さえあれば皆を助けて… あんなヤツらに負けないにゃ…」 「あ、そうだ!マスターさん、リィリィにも装備を作って下さいにゃ! 装備があれば負けないのにゃ!」 一瞬しょんぼりしつつも、すぐに持ち直したリィリィがなんとこちらに話しを 振ってくる。 ううむ…なんと答えたモンか。 「リィリィさん…それは違います」 オレが悩んで居るうちに、ジェネシスが会話に割って入る。 「装備は、神姫を助けてくれます。でも、神姫を強くしてはくれません。決して」 「そんな事ないにゃ!強いパーツを持ってる神姫は強いにゃ!」 「おねーさんは強いパーツを持ってるから解らないんだにゃ!」 「リィリィさん…」 諭すようなジェネシスの言葉に強く反論するリィリィ。 ジェネシスは悲しそうな瞳でリィリィを見詰めるのみ。 …やれやれ。 「リィリィちゃん、例えばマシーンズが今の3倍の数使えるとしたらどうかな? それは強い?」 「3倍!?それはきっと強いにゃ!でもひぃ、ふぅ、みぃ、はにゃ…混乱するにゃ~」 マシーンズの様な、遠隔操作を要する自律兵器を統率する事は簡単そうに見えて 実は非常に複雑なのだ。 一説にはその制御にリソースを食われてマオチャオシリーズはAI的に幼いなんて説も… いや、それは置いといて。 「ジェネシスはドラグーン6基、クローデバイス2基、フレキシブルアームが5本… コレらすべてを常時コントロールしなきゃいけない。腕が15本あるようなモンかな」 「じっ…じゅうごほん~…こんがらがるにゃあ~」 目を回すリィリィに多少は場の空気が和んだのを感じ、続ける。 「ジェネシスだって最初からこの装備を扱えたワケじゃない」 「というか、この装備自体が改良に改良を重ねて作り上げていった物だから、その過程 で身につけていったって所かな」 一拍置いて言葉を続ける。 「いいかい、リィリィちゃん。強力な武器を持つ神姫が強いんじゃない。 武器を使いこなしその性能を引き出せる神姫が強いんだ」 「今までだって、そんな神姫をリィリィちゃんも見てきた筈だ」 しばらく考えたリィリィが、おずおずと口を開く。 「じゃあ…リィリィも強くなれるかにゃ?おねーさんみたいに…」 「なれるさ。先ずは、一つの武器を極める。誰にも負けないぞってぐらい、その武器の 使い方を身につけるんだ」 リィリィが頷くのをモニタ越しに確認して、続ける。 「そしたら、次はその武器を生かせるような他の武器を選ぶんだ。組み合わせは いっぱいある。そうやって、武器を、戦い方をどんどん身につければ、どんどん 出来る事が増えていく。昨日は出来なかった事が出来るようになる」 「昨日より今日より明日。装備なんか無くたって、そんなリィリィちゃんはずっと 強いんじゃないかな?」 「昨日より…強いアタシ…」 ぱぁ、とリィリィに明るい笑顔が広がる。 「頑張るのにゃ!リィリィ頑張るのにゃ!」 「強い武器がなくたってリィリィは強くなれるのにゃ、皆を守れるにゃー!」 元気に飛び跳ねるリィリィ。自分の可能性に気付いたその表情は明るい。やれやれ。 「マスター…良い話しますね、偶に」 黙って聞いていたジェネシスが、誇らしげに微笑んでいる。 うわ。またやっちまった。オレ、凄い恥ずかしい事言ったよな今? 「いや、アレだ!好きなヒーロー物の受け売りだよ!? ほらヒーロー物はやっぱ人生のバイブルだろ!?」 やけっぱちで弁解する。あー、すっげぇ恥ずかしくなってきた。 「はいはい…」 ジェネシスのこちらを見て笑うその瞳が優しい。やめろ、オレをそんな暖かい目で見るな。 誰かオレを埋めろ。 「では…明日へ希望を繋ぐ為に、行きましょう!」 ジェネシスの呼びかけに屋敷の方を見る。屋敷は既にその威容を目の前に現していた。 薄暗い雑居ビルの一室、サーバー一台とPCが三台並ぶだけの殺風景な室内。 PCにはそれぞれ男達が張り付いてなにやら作業を行なっている。 その表情を一言で言えば…焦燥感。 「どうだ、神姫共は全員捕まえたか?」 ドアを開け、やさぐれた風貌の男が入ってくる。作業していた一人が慌てて腰を上げ。 「ア、アニキッ!それどころじゃねぇんですよ。見覚えの無い神姫が何時の間にか居て、 捕縛プログラムをどんどんブッ壊してるんですよ!」 「ああ?そういうのは登録の時に入れない設定になってるって、ブローカーが言ってた だろうが!テメェ、掴まされやがったな!?」 「ひっ!?いや、そんな事ねぇですよ!コイツ、昨日はいませんでしたって!」 「外から入ったってのか!?アレか、ハッカーってヤツか?どんなヤロウだ」 画面内を駆け回るのは銀色の神姫。アニキと呼ばれる男はユーザー情報を閲覧する。 >Type:WAFFEBUNNY >Name:Genesis >User:G 「…Gだと!?こいつ…あのGか!?って事はコレがウワサのE.Sか!?畜生!!」 「アニキ、コイツ何なんです?」 モニターとアニキと呼ばれるおそらく主犯の男とを交互に見詰める男。 「神姫犯罪が流行りだした頃、どっからともかく現れた自警団気取りのイカレ野郎だよ。 ブローカーから聞いた事がある」 唸るように低く呟く男は、続ける。 「コイツに目をつけられたヤツは必ずヒドイ目に合ったそうだ。神姫にしても コンピュータにしても、とんでもねぇ腕をしてていくつもの連中が被害にあってるって 話でな。神姫犯罪を嗅ぎ付けちゃ、幽霊みたいに現れるって話だ」 男達が話している間にも、銀のヴァッフェバニーは次々とプログラムを破壊していく。 「場合によっちゃタイプ名の後にE.Sって名前がついててな。なんちゃらストライクだか そんな名前だとよ」 「どういう意味か聞いたらよ、その中国人ブローカー漢字で見敵必殺と書きやがった。 笑えねぇ」 舌打ちし、憎々しげにモニターを見詰めて叫ぶ。 「おい、サーバー操作してとっととコイツを弾き出せ!」 「それが、さっきからやってんですけどサーバーをコントロール出来ねぇんですよ!」 「ああっ、畜生!」 部下の男の悲鳴に近い報告を聞き、主犯の男は近くの椅子を力任せに蹴り飛ばす。 追い出せないなら…後は潰すしかない。このままじゃ折角の儲け話がパーだ。 「くそ、こうなったらオレがあのGをブッ殺してやらぁ!例の神姫、使えるな!?」 「あ、へい!言われたとおりにやっときました!」 「よっしゃ…裏稼業でも音に聞こえた神姫のデータだ。強い神姫に目が無い金持ち連中に なら100万…いや、1000万単位でも売れるかもしれねぇ」 男が思考を切り替える。そう、こいつはチャンスだ。こないだも鶴畑とかいう金持ちが 大金積んだとかを自慢してるヤロウを苦々しく見てたが、今度は俺の番ってワケだ。 大金に目を輝かせる男達は、反撃の準備を始める。 「さぁ、儲けさせてくれよ…見敵必殺の武装神姫さんよぉ…」 下卑た男の笑いが、埃っぽいワンルームに低く響いていた。 屋敷内に無数に仕込まれたファイヤーウォールを破壊しつつ、先を急ぐ。 「皆の気配を感じるにゃ!こっちにゃっ!」 興奮気味にしっぽを揺らしながら走り抜けるリィリィに誘導される形で、 ジェネシスが続く。 「ここにゃ!」 叫ぶリィリィが大きな扉を開け放つ。中には不安そうな顔の武装神姫… おいおい、30ぐらいいないかコレ。 「皆、助けに来たにゃ!早く逃げるにゃ!」 わっと歓声を上げる神姫達。リィリィに先導される様に駆け出して行くその殿を ジェネシスが務める。 「マスター…抵抗が少な過ぎませんか?敵方の神姫が一体も出てこないというのは このテの犯罪としてはどうも…」 周囲を警戒しつつ、不安を煽らないように小声で問うジェネシス。 確かに、色々嫌な予感はしていた。 予想は色々出来るが…出来れば外れて欲しい。杞憂であって欲しい。 そういうのに限って当たるんだが。 「リィリィの方を警戒だ。門を開けたら、なんて事にならないように」 「了解」 大きな正門はもうそこまでという所まで来ている。ジェネシスがトリガーロックを外し、 そちらを注視した。 こちらの不安を知ってか知らずか、大きな声でリィリィが叫ぶ。 「開けるにゃ!」 ゆっくりと音を立てて開くその扉の向こうには…曇天が広がるばかりだった。 取り越し苦労か?いや…突如始まる地鳴りが不安を肯定する。地を割って現れたのは 今までとは明らかに異質な敵…神姫だった。 ストラーフの腕を無数に繋げていったようなその姿は、龍のようでもあり、 百足の様でもある。尾部には巨大なブレード、頭部は…その巨大さから良く見えないが 大きな目と爬虫類のような顎から覗く牙が伺える。 「私がやります!リィリィさんは皆を守って!」 ジェネシスが前に出る。確かに、とても普通の武装神姫が戦える相手じゃない。 「解ったにゃ!」 ジェネシスと入れ違いに下がるリィリィが、神姫達とジェネシスの間に入り、 神姫達を守るように立つ。 どうにも嫌な予感がして一声掛けようとしたその時。一瞬、ジェネシスの視界から見た リィリィの背後の神姫達。 ─その表情が消えていた。 「リィリィ!危ない!」 反射的に叫ぶ。だが…オレの叫びと、リィリィが背後のハウリンタイプにその身体を 貫かれるのはほぼ同時だった。 「リィリィさん!」 ジェネシスがハウリンにぶちかましをかけ、リィリィを抱いて上昇する。 地上には操られた神姫達、そして空にはこちらを睨みつける巨大な異形の神姫の頭。 それらと距離を取り、リィリィを安全な場所へ降ろすべく飛ぶ。 「にゃ…どうしたにゃ…痛いにゃ…体が、動かない…にゃぁ…」 「喋らないで…!」 苦痛に歪むリィリィの声を、心配そうなジェネシスの声が遮る。 「みんなは…どうしたのにゃ…?」 「操られています…おそらくウイルスによって」 逃走中の様子に不自然な点は無かった… とすれば、任意で起動する洗脳プログラムだろう。 …その可能性は充分考えられたのだ、罠を感じた時から。 過去にそんな経験が無かったわけでもない。 だが、リィリィにそれを告げる事がどうしても出来ずに、頭のどこかで可能性を 否定していた。 彼女が必死に守る、そんな仲間に気をつけろとは言えなかった。 「すまん、リィリィちゃん…オレが気をつけていれば」 「マスターさんの…せいじゃないにゃ…」 リィリィの微笑みに首を振り、言葉を続ける。 「いや、こんな事もあるかもってさ…心のどこかじゃ考えてたんだ」 「…言えなかったけどな」 不甲斐なさを噛み締め、彼女に謝罪する。 「解ってるにゃ…リィリィが、悲しい思いをしないようにって…言えなかったにゃ…? ありがとにゃ。悪くなんて…無いにゃ…」 何もいえない…言葉に詰まるオレを、ジェネシスが叱責する。 「マスター、私達は何ですか?ここで折れてはならない、負けてはならない。 正義は勝たなければならない」 「勝利する者が正義じゃない。だが、正義を語る者に負けは許されない。 諦めないから、正義は死なない。でしょう?」 …ジェネシスの言葉が、胸の奥を燃やす。そうだ、オレは…やらなきゃならない。 凹むのは、店長稼業だけで充分だ。 「…助けるぞ、全員だ」 「勿論です」 「にゃ。ファイトにゃ…おねーさんはつっよいにゃ…信じてるのにゃあ…」 力なく微笑むリィリィに頷き返す。 「しばらく眠っていて。目覚めた時には貴女は…貴女のマスターのお家に帰ってる。 約束します」 「うん、楽しみ…にゃ」 データ破損状態のまま活動するのは危険な事だ。セーフティが働きスリープモードに 移行したリィリィを丘に降ろし、こちらへ迫る神姫達を見る。 「ここが正念場だな」「はい」 気合を入れたジェネシスが、曇天の空へ飛翔した。 NEXT メニューへ
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「まだ終わりませんよ。姉さん!」 光の刃が生まれたぺネトレート・烈「ぺネトレートセイバー」を携え姉さんを見据える。 痛みなんか関係ない。全力をもって姉さんと戦う 姉さんは歩みを止め、こちらを感心そうに見る。 「……ほう。まだ立ち上がれるか。そしてそれはオリジナルとみえる。そんな武装を出したぐらいで勝てるのかな」 「やってみなくてはわかりません」 私はリアパーツ、バリスティックブレイズをパージする。 もうこれは使い物にならない。ここからは真っ向からのぶつかり合い。 姉さんも大剣を正眼に構えて、迎え撃つつもりだ。 「はぁっ!」 私は姉さんの元まで疾走し、ぺネトレートセイバーを構えて右横から薙ぐ。 それはもちろん大剣で防がれる。 そうなるのはわかってた。 姉さんは私が今度は右の剣で攻撃した後は左の剣で突きに来ると思ってる。 姉妹だからわかる。断言してもいい。 だけど、それは姉さんの驕り。そしてそれは私への油断。 「こんどはそちらが……甘いです!!」 右の剣が防がれ、捌かれた勢いのまま一歩踏み込む。私は上半身を捻り右足を軸にして、回転。 左足で後ろ回し蹴りを姉さんのわき腹に放つ。 姉さんは私の予想通りに大剣は突きを備えてて、腹部は隙だらけだった。 「……くぁ!?」 直撃を腹にもらい、おもわず苦痛の声を上げる姉さん。 それでもまだ終わらない。 わき腹に当てた足を下ろし、今度は本気で左手のぺネトレートセイバーでフェンシングのように刺しにいく。 もちろん衝撃を与えたその腹部にだ。 だが、それは姉さんの左腕で真横から強く払われた。 それによって肘から先の腕周りが半分切られ、左腕はもう使えなくなったかもしれない。 ぺネトレートセイバーの鋭い切れ味を無視した捨て身の捌き。 それでお互い、間合いを空ける。 私のダメージよりか少ないが、左腕を使えなくさせた。 これで姉さんにも深い傷を与えることができた。 「……つぅ……これほどの深手を負うのは久しぶりだ。……強くなったんだな」 「私は逃げた先で大切な人に出会いました。そのおかげで姉さんたちの前に舞い戻って来れた。これが私の……いえ、私たちの強さの源です」 「……そうか、当然だな。こちらはその大切な人にはなれなかったわけだから。……“シオン”」 「わ、私の名前を……」 初めて姉さんに名前を呼ばれた。 認めてもらえて、今は敵同士なのになぜか嬉しくなってしまった。 「……全力でいくぞ」 「はい。こちらもそのつもりです!」 私と姉さん、両者身構える。 こちらはナックルから進化した双剣を。あちらは片手に大剣を持って。 姉さんは片手でも大剣を軽々と扱えることができる。ここからも油断は一切できない。 好敵手と認めてもらった。これでもう姉さんも私への驕りはないだろう。 そして、どちらからともなくピクリと動き、駆け出す。 「はぁっ!」 「……つぁっ!」 姉さんは片手上段から振り下ろし。 私はぺネトレートセイバーを交差させて、それを防ぐ。 数分は致命傷にならないような傷が全身に負うほどの斬り合いが続く。 袈裟斬り、逆袈裟、振り下ろし、振り上げ、双剣での連続の斬撃。 数え切れないほどの何度目かの斬り合いでガンッと轟かせ、剣が交りあった箇所から火花が飛び散る。 「くぅっっ!」 「……ぐぅっっ!」 同じように声を出し、二人とも歯を食い縛らせている。 こちらは両手。姉さんは片手なのに鍔迫り合いが拮抗している。 どれだけ、姉さんは馬鹿力なのか。 場違いにも私は頭の中でほとほと呆れてくる。 そして、私たち姉妹はまた同時に、鍔迫り合い状態からどちらも剣を離した。 一旦離れ、姉さんは大剣を横に倒して、そこから踏み出し思いっきり薙いでくる。 私は迎え打つ為にぺネトレートセイバーを重ね合わせ、大剣自体を真っ二つにする気で、こちらも思いっきり叩き斬る態勢で。 「……これで、終われぇぇーー!!」 「根性ォ!!!!」 鋭い剣閃の音の後、重い打撃のような鈍い音に変わった。 そのまた数瞬後。 私たちのいる頭上でヒュンヒュンと壊れたプロペラのような音が続く。 「……相打ちか」 「そうですね」 二振りの剣と赤い大きな大剣が地面に刺さった。 ぺネトレートの光刃はふっと消えてナックルに戻って落ちた。 そして、私たちはどちらからともなく倒れる。 動かない。動けない。 姉さんも私も。 もう体が…………。 ―――― 「シオン! 起きろ。目を開けろ」 僕が命令も出せず茫然と見ていて、もう10分ぐらいは経ったか。 気付いたら二人は倒れていた。 シオンはあの危機的状況から、ぺネトレートクロー・烈の力を発現させて、イスカを追い込んだ。 でも、どちらも力を使い果たしたのか、ピクリとも動かない。 「立って! シオン!」 「イスカ、立てー!」 「シオン、負けるなー!」「どちらも起きてくれー!」 見渡せばいつの間にか、周りからは熱いバトルを魅せられて、ちらほらと観客から応援の声が交っていた。 ほら、こんなにもの人たちが声を出しているんだから、聞こえているなら立ってくれ。 ……シオン! 筐体の画面を見れば起きあがる神姫の姿が。 観客からは、オオォッ! と驚きの声が上がっている。 声から察するにどちらかが起き上がったみたいだ。 それはどっちだ。どっちなんだ。 目が涙で濡れていて前がよく見えない。 クソッ。 拭っても拭っても後から出てくる。 確認しなきゃいけないのに。 「はい、ハンカチ」 「あ、どうも」 と、横から優しく声をかけられて手にハンカチを持たせてくれた。 それで目元を拭う。 「すいません。お見苦しいところを……て……、あ」 ハンカチを貸してくれた優しい声の主は宮本さんだった。 僕は突然気恥しくなった。 ハンカチは洗ってから返そうと思い、宮本さんにそう伝えようとするが。 「いいわよ、それあげる。言い方がものすごく悪いけど残念賞ってところね……あれ」 「え」 宮本さんが促した目線の先。 見えるようになった僕が筐体画面を見つめれば道の真ん中には――肩で呼吸をしているイスカが立ちあがっていた。 そして傍らの倒れているシオンはモザイク状になって消えていった。 遅れて聞こえるジャッジの機械音声。 『WINNER イスカ』 ―――― 「すいません、螢斗さん。負けてしまいました。……あはは」 「シオン……」 シオンは笑いながらもそう言った。 でもそれは仮初めの笑顔。 僕にはそれがわかってる。 「よく頑張った。シオンは頑張ったんだから。無理はしないで。……こういう時はおもいっきり泣いた方がいいよ」 シオンの頭を撫でる。 次第にシオンは俯いてきて。 「……だって私は……螢斗さんの武装……神姫なんですから……負けたぐらいで泣くわけ…………ヒック……う……うああああーーーあーーーー」 「よしよし……」 泣きじゃくって大粒の涙を流し張り裂けそうなほどの声を上げるシオン。 僕はそれを、シオンを子どもをあやすように、背中に指を優しく当て続ける。 ついでに僕も涙を流しながら。 神姫の尋常じゃない程の泣き声しか聞こえなくなったゲームセンター。 周りにいた人たちもこの空気に騒ぐ気はなくなったのか、不気味なほどの静けさが店内を包み込んでいた。 宮本さんはこの空気の中を普通に歩きだし、自分のついていたブースのアクセスポッドから、イスカを連れ出して持ってきた。 「ほら、イスカ」 「…………」 宮本さんは涙をこぼしているシオンの前にイスカを置く。 バイザーを外した真っ赤な瞳をさらけ出したイスカだ。 それでも無表情のままのイスカ。 「シオン、こっちも」 「グス……はい……」 シオンはなんとか目から溢れ出る涙を留まらせ、手の甲ですべて拭ってから、イスカの前へ歩み出る。 そして見つめ合うシオンとイスカ。 「……ん」 突然、イスカはぶっきらぼうに音だけの声を出し右腕を動かした。 それは不器用そうに右手を軽く開きシオンに差し出している。 これは握手でいいんだよね? 僕はそう思った。しかし、それを見たシオンは。 「ウゥ……お姉ぇちゃ~~ん……うわぁああああああああ!」 「……おい、ちょっと!?」 感極まったシオンは引っ込ませた涙腺をまたもや崩壊させて、握手のポーズを無視し、イスカの胸に抱きつき号泣をする。 それで、イスカは無表情な顔を見たことも無いほど驚き戸惑った顔に変化させた。 抱きつかれ固まっていたイスカだが、やがてシオンの頭に手をやった。 「……ふ、まったく、泣き虫な妹め」 「ぁああああああああ……お姉ちゃん、お姉ちゃーん!」 毒づきながらも、シオンは姉らしい穏やかな笑みを浮かべて、シオンを抱きしめ返した。 両腕で優しく。 バトルは勝てはしなかったけど、イスカのあの笑顔を見てたら、姉妹でいがみ合う事はもうないなと僕は思えた。 こうして永遠とも思われた、戦えない、いや戦えなかった武装神姫シオンの。 家族の絆を取り戻す戦いは終わったんだ。 長かった全てが終わった。 前へ 最後へ
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期間限定イベント「ガリレオと星の聖霊」 開催期間 2014年7月18日0 00~2014年7月28日23 598月1日12 00までに延長 内容 期間中出現するイベントラビリンスに挑戦すると、ラビリンス内で “ほしくずのカケラ”を手に入れることができます。“ほしくずのカケラ”を集めて星の精霊錬成ガチャで星の精霊たちを手に入れましょう! イベントラビリンス登場期間 楼炎の星窟 2014年7月18日(金)~2014年7月20日(日)23:59 水乙女の回廊 2014年7月21日(月)00:00~2014年7月23日(水)23:59 聖緑の祠 2014年7月24日(木)00:00~2014年7月26日(土)23:59 ※7月27日(日)~7月28日(月)8月1日12 00は、すべてのイベントラビリンスが出現します。 イベント後半には、特別ラビリンス“惑星を統べるもの”が出現します。星の精霊を封印したガリレオと戦って、SSR「ガリレオ」を手に入れましょう。 惑星を統べるもの 2014年7月26日(土)00:00~2014年7月28日(月)23:59 2014年7月27日(日)0 00~2014年8月1日(金)12 00